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琴勝峰×琴栄峰「狙うは兄弟で優勝決定戦!」七月場所で平幕優勝を果たした兄と、二人三脚で相撲を続けてきた弟が初対談

兄の琴勝峰(前頭五枚目・左)と弟の琴栄峰(十両二枚目)(写真・梅基展央)
「ここからですね。これからまた、九月場所が始まるまでしっかりと仕上げていきたいですね」
九月場所に向けて稽古をおこなった9月3日、琴勝峰(ことしょうほう・26)は大量の汗をかきながらも、きっぱりと決意を語り始めた。
先場所、東前頭十五枚目の番付で13勝2敗の好成績で初優勝を果たした琴勝峰。平幕力士の優勝は、2024年3月場所の尊富士(たけるふじ・26)以来、8場所ぶりのことだった。
所属する佐渡ヶ嶽部屋には、弟の琴栄峰(ことえいほう・22)もおり、互いに刺激し合う仲だという。
兄弟はともに幼稚園時に相撲を始め、地元の柏市相撲スポーツ少年団で切磋琢磨。その後、中学は別々も高校で再び同じ道を歩む。弟の琴栄峰は「兄と同じ道を選ぶことに迷いはなかった」と語る。
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高校は相撲の名門校で知られる埼玉栄高校。ここで2人は、高校相撲界の名将・山田道紀監督と出会う。
「それまでは週2ほど道場に通って稽古をしていたんですが、高校では毎日、稽古です。寮で先輩と共同生活をするようになって、上下関係や礼儀など山田先生にすべてを教えていただきました」(琴勝峰)
これには琴栄峰もうなずく。
「生活がガラッと変わって。親にやってもらっていたことを自分でやらなければいけないし、相撲も考えなければいけない。おかげで、精神的にも肉体的にも強くなったと感じることができました」
埼玉栄では中・高の部員が寮生活を送り、朝昼晩の食事はすべて山田監督の手作り。角界に進んだOBたちもその味が忘れられず、場所中でさえ寮に顔を出すほどだ。
「とにかく、おいしくて。ここまで体を作れたのは、高校3年間で先生のご飯を食べさせてもらって、しっかり土台ができたからです。入学当初は経験のない稽古量で10kgほどやせました。でも、慣れてくると体重もどんどん増え、卒業するころには35kgくらい増えていました(笑)」(琴勝峰)
■5年で関取になれなかったら引退する
2人の父・手計(てばかり)学さんも、琴勝峰の高校進学についてはよく覚えているという。
「複数の高校から誘われたんですが、多くが『1年生から試合に使います』と。でも、山田先生だけが『1年時は使いません。体作りに充てますから』と、他校と違うことを言ってくれた。これが決め手となって入学したんです(笑)」
また、「個人戦のタイトルはなかったんですが……」と、学さんは続ける。
「上級生になると、団体戦の大将を務めていました。勝敗を左右するポジションでしたが、星を落とすことはなかったはず。責任感が強かったんですかね。弟(琴栄峰)に聞くと『お兄ちゃんはめちゃくちゃ負けず嫌いだから』と言ってましたけどね」
琴勝峰に確認すると「たしかに団体戦のほうが勝てましたね。やはり“栄”という看板を背負っていたからだと思います。責任感もあるし、山田先生に恩返ししたいという気持ちが強かったです」と語る。
兄弟の相撲との出合いから、埼玉栄に進むまでの道のりはほぼ同じだが、卒業後は別々の道を進む可能性があったと学さんは言う。
「10月の国体後に3年生は引退するんですが、長男は『大学に行く』と。そんなとき佐渡ヶ嶽親方が何度も訪ねて、誘ってくれたんです。『相撲人生は短いから、大学に入ってからプロは難しい。それならプロに入って、引退後に大学を目指せばいいんじゃないか』と。なので、家族の間では5年で関取になれなかったら引退して大学を目指すという話になっていたんです」
琴勝峰も「最後の最後まで迷いました。でも、小さいときからずっと声をかけていただいていた佐渡ヶ嶽親方の言葉にかけてみようと決めました」と、悩んだ末の決断だったと振り返る。一方の琴栄峰は、プロ入りを即決。
「僕の10月の引退時には、すでに兄は関取になっていた。兄のように活躍したいという気持ちが強かったんです」
仲よし兄弟は、土俵を離れても行動をともにすることが多いという。そのひとつが銭湯やサウナめぐり。ただし、琴勝峰がサウナに入っている時間は、3分から長くても5分。水風呂も同じ時間入って、しかも2セットしかしないという。まさに、サウナ版“烏の行水”である。
そんな琴勝峰は2023年夏に結婚し、同年10月に第1子の男児が誕生。この結婚をきっかけに「長男は変わった」と学さんは語る。
「高校では1年から団体戦に出始め、プロでも早くに関取になれた。なので、裏方の仕事はほとんどやってないし、ちゃんこ番にしてもそう。料理なんてまったくできなかった。結婚するときに嫁さんに言ったんですよ。『あのコは何もできないし、相撲ができなくなったらただのデブだよ』と。そしたら嫁さんは『大丈夫です。私ががんばりますから』と言ってくれたんです」
九月場所は14日に初日を迎えるが、琴勝峰は先場所の優勝で番付が十枚上がって前頭五枚目に位置する。
「先場所優勝の勢いのままに勝ち上がっていければ。まずは三役ですね。最近、怪我が多いので、怪我をしない体作り、稽古をしていきます」
琴栄峰は先場所の負け越しで、入幕へ再挑戦の場となる。
「今場所は大きく勝ち越して、ひと場所で幕内に戻りたい」
最後に「本場所での兄弟対決の可能性は?」という質問をぶつけてみた。同部屋のため実現するには優勝決定戦しかなく、1995年十一月場所での若乃花対貴乃花戦しかないが……。
「ゆくゆくは、そういう戦いで盛り上げられたらうれしいかな」と兄が言えば、弟も「やりたいのはやりたいですけど」と。そして「一度やったら、やりたくなくなるかもしれませんけど(苦笑)」と声をそろえた。
琴勝峰吉成(ことしょうほうよしなり)
1999年8月26日生まれ 千葉県柏市出身 191cm、171kg 佐渡ヶ嶽部屋。東前頭五枚目。幕内出場は26場所、通算169勝185敗21休
琴栄峰央起(ことえいほうひろき)
2003年7月8日生まれ 千葉県柏市出身 184cm、140kg 佐渡ヶ嶽部屋。東十両二枚目。幕内出場は1場所、通算6勝9敗
コーディネート・金本光弘