スポーツ
日ハム・新庄監督の采配を元チームメイトが熱弁…首位猛追の秘密は選手も戸惑った「奇策」弱小チームが格上に勝つヒントが

就任4年めの新庄監督は有終の美を飾れるか
就任4年めの悲願に向け、首位・ソフトバンクに肉薄する日本ハムの新庄剛志監督。常識外の作戦を勝利につなげる “新庄マジック” の魅力を、現役時代に日本ハムでチームメイトだった岩本勉氏が語る。
新庄監督と岩本氏は同学年で、ドラフト指名も1989年と同じだったが、それぞれセ・リーグの阪神、パ・リーグの日ハムに入団。リーグが分かれたこともあり、当初は接点がほとんどなかったという。
「最初に言葉を交わしたのは、1999年のオールスターだったと思います。新庄君から『岩本クン、同い年だよね』と声をかけてきたんです。じつは、僕は同級生でも呼び捨てにはしないんです。クンづけかあだ名で呼ぶ。彼も僕のことを岩本クンと呼んできたので、『俺以外にもこういう感覚をもっている人がおるんやな』と思ったのが第一印象でしたね」
その後、再会までには5年の月日が流れた。
関連記事:新庄が抱える「不義理問題」ソフトバンク「S班の懸念」楽天に集まる女性たちの目当ては?【パ・リーグ春季キャンプ地獄耳】
「次に会ったのは、彼がファイターズに入団してきたときでしたが、オールスターで最初に会った印象がすごくよかったので、なんの抵抗もなく『ガンちゃん、ツーやん』と呼んでいましたね。
で、チームの今後の話になって、『どうやって優勝させる?』と聞いてくるかと思ったら、『ガンちゃん、どうやって札幌ドームを満員にさせる?』と、切り口はそこかと。
チームの現状に対する入り口が違ったし、『おもろい人やなあ』と思いましたね。まず、優勝して札幌ドームを満員にするのが順序だと思うんですが、ツーやんは逆だった。あの感性はすごかったなあ。
まあ、どう見ても容姿では勝てんから、『ツーやんは二の線で、僕は三の線の役割分担でいこか〜』と仲よくなっていきましたね」
新庄監督の「札幌ドームを満員にする」は、口先ではなくまさに「有言実行だった」と語る。
「天井から降りてくるとか、ゴレンジャーに変装するとか、甲子園で阪神のユニホームを着るとか、彼はやりましたよ。常識破りなことを。たとえば天井から降りてくる企画なんて、チーム、札幌ドーム、そして消防局とすべて根回しして実現したんですから。甲子園で阪神ユニなんて本当のサプライズやったみたいですよ。
そんな “サイドメニュー” をメディアが取り上げることは多かったんですが、彼は成績もすごいんですよ。だって日米通算で1500本以上の安打を放っている。平成のプロ野球でですよ。これは名球会入りの成績に匹敵すると思っているし、僕はツーやんは超一流の選手やったと思っています」
プレーでも “サイドメニュー” でもファンを楽しませた現役時代の新庄。将来、監督あるいはコーチの道に進むと、岩本氏は感じていたのか。
「そんなん、彼がファイターズに選手として入団したときから思ってました。新時代の野球に生きていた人だったのでね。とはいえ、なかなか行動に移せないのが普通です。でも、彼は思いっきり動いた。プレーでもファンサービスでも。
ただ、やるとしたら監督で、コーチはないと思っていました。彼は全部の責任をとる感じの性格だったから」
その思いが確信に近づいたのは、新庄が2020年にトライアウトを受けにバリ島から帰国したときだったという。
「もう1回選手に挑戦するわけだけど、僕は『あっ、監督をやる気だな』と思ったんです。じつは帰国して僕のYouTube番組に出てもらったんです。そこで『どこかの勇気あるチームが俺を監督として雇わないかなあ』と言っていました」
その願いどおり、新庄は2022年シーズンから日ハムの指揮を任されることになるが、最初は疑問に思っていた人が多かった。だが、1年めこそ最下位に終わるも、その後は若い選手を積極的に起用したり、いままでの監督は考えなかったような作戦を用いたりして、3年めは2位、今年もソフトバンクと激しい首位争いを演じている。
好調の要因のひとつが、2ランスクイズなど、巷で “奇策” と呼ばれる作戦だ。
「いまの野球をすごく理解しているから、あのような作戦を使うわけです。だって、いまホームでキャッチャーはブロックできないんですよ。スクイズが増えるのは当たり前です。ランナー三塁で内野ゴロなら、ほとんどがゴーのサインだし、タッチアップも同様。それをちゃんと理解して、選手に把握させ、行動に移している。
2ランスクイズだけじゃない。フォースボーク(投手のボークを誘発する作戦)にしてもそうですね。
ランナーが一、三塁のとき、一塁ランナーが二盗を試みるんですが、わざと途中で転ぶんです。するとキャッチャーなりピッチャーは一塁ランナーを刺しに行きますが、その隙に三塁ランナーがホームに突入するわけです。
左ピッチャーのときに有効です。なぜなら三塁ランナーに背を向けているからです。この作戦をツーやんはよく使うんです」
最初は日ハムナインにも戸惑いが見られたという。
「最初は選手もびっくりしていました。ほとんど使ったことのない作戦ですから。最初の2年間どんどんやらせて選手に覚えさせ、昨年あたりから選手は『(サインが)出るな!』とわかっているようです。だからこそ、今シーズン、スタートなどで選手に迷いはありません」
新庄監督は今シーズンで契約は切れ、来シーズン以降はまだ何も決まっていない。
「僕も去就に関してはまったく知りません。ただ今シーズン、優勝する気は満々です。また、野球を楽しむ姿勢は昔から変わっていませんが、今は自分の内面から湧き出る喜びをかみしめるようになっていると思いますね」
その新庄は球界に何をもたらしたのか。
「いちばん影響を受けたのはアマチュアの人たちだと思いますね。ルールのなかで『こんな作戦もあるのか』と。この3年間、“目からうろこ” の連続だったと思います。
それに新庄ファイターズの試合を見ていると、弱小チームがどうやって格上のチームに勝つかのヒントが多く隠されています。作戦面でね。かつて “新人類” という言葉が流行りましたが、ツーやんは “新種監督” ですよね」
残り試合数もあとわずか。希代のエンターテイナーは、どんなラストを用意しているのだろうか。