
大谷翔平
大谷翔平(31)は、ドジャース移籍1年めの昨季、悲願のワールドシリーズ制覇を果たした。打者に専念すると、史上初の「50本塁打・50盗塁」を達成。最終的には54本塁打59盗塁という驚異的な数字に到達し、満票で自身三度めのリーグMVPも手にした。
そしてドジャース2年めの今季、6月には肘のトミー・ジョン手術から663日ぶりに投手として復帰。打者としても9月16日のフィリーズ戦で50号を放ち、2年連続でのシーズン50本塁打を記録。投打の活躍で、4年連続のナ・リーグ西地区優勝に貢献した。
そんな大谷の今シーズンを、現地アメリカではどう見ているのかーー。本誌はドジャースを追いかける番記者2人に、大谷、そしてチームメイトの山本由伸(27)、佐々木朗希(23)について語ってもらった。
大谷は今季も打者としてチームの主軸を担い、チーム最多の158試合に出場し、打率.282、55本塁打、102打点、20盗塁。ナ・リーグ最高のOPS1.014(出塁率+長打率)、メジャー最多の146得点をマークしている。
ーー今季の大谷について聞きたい。まず打者としては?
ビル・プランケット(以下、BP) 昨季との違いは、好調な期間が長く続かないというか、手のつけられないという期間がなかったこと。昨季は一番になった6月、あとは9月半ば以降、相手投手はもうお手上げというくらいに絶好調だった。ホームランを量産し、9月半ば以降は得点圏打率が7割とか、とにかく打ちまくっていた。でも、今季はそこまで好調な期間は長く続かなかった。
ただ、それは予想されたことでもある。投手としてのリハビリがあり、投手として復帰してからは、そのための調整にも時間が必要だったからだ。物理的に打者として準備できる時間が減った。結果的にそれが身体的、メンタル的な疲労に繋がっている可能性は否定できない。とくに登板翌日になかなか打てなかったのは、そういう理由があるのだろう。チームもわかっているからこそ、試合のない日の前日に投げさせるようにしていた。
ジャック・ハリス(以下、JH) 昨季よりも「ボール球を振っている」とか、「少しアグレッシブすぎる」とか、いろいろ見方はあると思うけど、ビルが指摘したように、投手として復帰したことがオフェンスに影響していると思う。投手として復帰した6月半ば以降、長い期間にわたって打ちまくるということがない。長らく二刀流をやっていなかったので、体が慣れていなかったのだろうし、シーズン中にルーティンが変わって、それに体がついていかなかったのではないか。二番を打つムーキー・ベッツ(32)は今季は不振が続いていたが、ここへきて調子が戻ってきており、相手も大谷とストライクゾーンで勝負しなければならなくなった。だからプレーオフは、本来の姿に戻るのではと期待している。
■調整と結果を見事に両立させた投球内容
打者としてチームを支える一方、6月には投手としても復帰。当初は1回のみのオープナーとして投げていたが、徐々にイニング数や球数を増やし、14試合に先発し1勝1敗、防御率2.87。9月16日のフィリーズ戦では5回をノーヒットに抑えると、レギュラーシーズン最後の登板となった23日のダイヤモンドバックス戦でもチームは敗れたが、6回8奪三振無失点の好投を見せている。
ーー投手としての復帰プロセスについてはどう見ている?
BP ここまでのところ成功だったと思う。ドジャースとしてはもちろん、大谷としても10月に先発としてしっかり5イニングを投げられるようにという目標があったと思う。そして今、そういう状況になっている。また、大谷が復帰した6月は、先発投手に怪我人が続出し、1週間に2回はブルペンデーだった。その場合、初回にリリーフ投手を使うことがブルペン全体の負担に繋がるので、大谷がオープナーを務めてくれるだけでもありがたかった。
JH そうだね。正解がないプロセスだったけど、うまくここまで持ってきた。本当ならキャンプの時点でリハビリ登板をおこなって、開幕には間に合う予定だったけど、昨季のワールドシリーズで左肩を脱臼したことでプランが狂った。結果、シーズン中に指名打者として出場しながら、投手としての復帰を目指す形になったけど、登板日によってまっすぐを課題にしたり、スイーパーを多めに投げたり、毎回テーマが異なった。それをレギュラーシーズンでできてしまうところがすごい。調整と結果、双方を見事に両立させたと思う。
山本は移籍1年めの昨季、右肩痛の影響で約3カ月離脱。シーズンを通しては7勝2敗、防御率3.00と、大きな期待を背負ったわりには物足りなさも残った。だが2年めの今季は、序盤から安定感を発揮。30試合に登板し、チーム最多の12勝(8敗)を挙げ、防御率もリーグ2位の2.49と堂々たる数字を残した。
ーー山本はどう評価する?
BP 昨季はボールやストライクゾーン、相手打者、それに移動とすべてが初めてで、慣れたころに怪我をしてしまった。でも今季は開幕から自信を持っていて、学んだことをきっちり生かしている。夏場に少し疲れが見えたが、9月に入ってまたいいピッチングをしている。最高のタイミングで調子を戻してきた。これで本当にプレーオフが楽しみになった。彼はいずれサイ・ヤング賞を獲ると思うよ。
JH ビルが言うように、序盤は調子がよかったが、後半に入って打ち込まれる場面があった。もちろん疲れもあっただろうが、9月に入って見事に修正した。とくに高めまっすぐの制球がよくなって、スプリットがより効果的になった。カーブも昨季よりうまく使えている。今季は、ほかの先発が離脱するなかでローテーションを守り抜いた。その点も高く評価できる。
メジャー1年めの佐々木はここまで8試合に先発し、1勝1敗、防御率4.46。5月に右肩の痛みで負傷者リスト入りし、8月中盤からはドジャース傘下の3Aで調整を続けるなど苦しいシーズンを送っていた。それでも9月24日にメジャー復帰が決まると、同日のダイヤモンドバックス戦で3-1とリードした7回から登板。メジャー初のリリーフで、1回を無安打無失点に抑える好投を見せた。
ーー佐々木はプレーオフの戦力となる?
BP リハビリでは球速が100マイルまで上がってきたが、先発陣が充実しているぶん、なかなか居場所がない。チームは彼をじっくりと育てる方針に舵を切ったようで、プレーオフでの登板を考えているかどうか。ただ、プレーオフはチームに帯同させて、雰囲気を経験させる可能性はある。
JH 状態次第で、プレーオフのロースターに入る可能性もあり得る。100マイルの速球とスプリットは魅力で、三振が取れる。リリーフ陣に不安がある状況では、選択肢のひとつになるはず。ワイルドカードシリーズ(※ドジャースはナ・リーグ西地区優勝だが、東地区優勝のフィリーズ、中地区優勝のブルワーズに勝率で劣ったため、プレーオフはワイルドカードから出場)ではそれほど多くの投手を必要としないので、そこで彼がロースターに入るかは微妙。でも、リーグ優勝決定シリーズやワールドシリーズといった長い戦いになり得るシリーズでは、彼の力を必要とする場面があるかもしれない。同時に、彼はまだ “完成品”ではない。むしろ来季に向けてじっくり育成プランを考えるという選択肢もあるだろう。
■ナ・リーグのMVPはシュワーバーより大谷
ーープレーオフのドジャースの先発ローテーションはどうなりそう?
BP 順番はわからないけど、山本、ブレイク・スネル(32・5勝4敗、防御率2.35)、タイラー・グラスノー(32・4勝3敗、防御率3.19)、大谷の4人かな。今季限りでの引退を表明したクレイトン・カーショウ(37・11勝2敗、防御率3.36)に関しては、どんな役割になるのか判断が難しい。エメット・シーハン(25・6勝3敗、防御率2.82)は先発が早く崩れた場合の第2先発というか、複数イニングを投げられるリリーフとしてベンチ入りするだろう。大谷には球数、イニング制限があるから、カーショウが大谷の二番手として待機という可能性が考えられる。
JH 山本とスネルは確定。グラスノーは、このところの内容なら間違いなく入ってくる。あと一人は大谷かな。ビルが言ったように、順番に関してはわからないけど、やはり大谷は先発だと思う。もちろん、ドジャースは彼をクローザーとして起用する案も話し合っているけど、投げている球を考えれば一番手でもおかしくない。シーハンはロングマン。カーショウは正直なところ、どうするか悩ましい。
ーー功労者でもあり調子がいいだけに、カーショウに「プレーオフでは、リリーフにまわってもらう」と告げるのはなかなか難しい?
BP それは、アンドリュー・フリードマン編成本部長の仕事になるんじゃないかな。ただワイルドカードシリーズは、すべてドジャー・スタジアムでおこなわれるので、同球場と相性がいいカーショウに先発させる可能性はある。そうすれば、ワイルドカードシリーズで投げなかった投手を地区シリーズに温存することができる。それが成功すればいい花道になるけど、失敗したらレガシーに傷がついてしまい難しい判断になる。
ーー大谷がクローザーとして起用されるとは思わない?
BP 大谷をクローザーで起用することは、考えることが多すぎる。どのタイミングでブルペンに行かせるのか、打順がまわってきたらブルペンから走ってくるのか。投げるならクローザー限定だと思うけど、仮に追いつかれた場合、指名打者を解除しなければならないので、大谷がラインナップから消える。もしも大谷をリリーフで起用するなら、7~8回のピンチが理想。なぜなら、三振を取れるから。ただ、そうすると試合終盤で大谷が打席に立てなくなる。本人は外野にまわることも考えているようだけど、やはり大谷は先発だと思う。で、降板したらそのまま指名打者として打席に立つ。最終的には、オーソドックスな形になるのではないか。
JH そうだね。ただワールドシリーズで、ここぞという場面ではクローザー起用もあるかもしれない。ひょっとしたら、複数イニングの可能性さえある。プレーオフでは、先発投手が先発をしない日にブルペンで待機して、重要な場面で短いイニングを投げることがある。そのパターンなら考えられる。まさにWBCの決勝のような光景が見られるかもしれない。その意味では、可能性はゼロではない。
大谷のクローザー起用が議論されるのも、信頼できるクローザーがいないからである。レギュラーシーズンではクローザーを固定せず、調子のいい投手、あるいは相手とのマッチアップで9回に投げさせる投手を決めてきた。
ーー本来は、タナー・スコット(31・1勝4敗8H23S、防御率4.74)、カービー・イェイツ(38・4勝3敗15H3S、防御率5.23)、マイケル・コペック(29・6H、防御率2.45)がその役割を担うはずだったと思うが……。
BP イェイツにはまかせられないし、コペックも難しいだろう。スコットに至っては、どんな状況であれ投げさせることはリスクだ。となると、大谷だけではなく、先発で調子のいい投手を注ぎ込むことも考えられる。現状で考えれば、アレックス・べシア(29・4勝2敗26H5S、防御率3.02)とブレイク・トレイネン(37・2勝7敗10H2S、防御率5.40)ということになるのかな。
JH 1年を振り返ってみると、1週間ぐらいならスコット、コペック、イェイツもいいときがあった。でも、2週間は続かない。全員が同じ時期に調子が悪いということはなかったと思うから、調子のいい投手を見極めて抑えをまかせるしかないと思う。
ーー最後に今季のナ・リーグのMVPは?
BP 大谷だと思う。
JH 本塁打と打点のタイトルは、カイル・シュワーバー(32・フィリーズ)が獲得しそうだけど、指名打者だから(シュワーバーは56本でナ・リーグ本塁打王。打点も132でリーグトップ)。投手としての貢献も加味すれば、大谷が獲ることになると思う。
大谷が初めて“二刀流”で臨むプレーオフは、9月30日に幕を開ける。大谷らを擁するドジャースは、ワールドシリーズ連覇という偉業に挑むーー。
※日時は現地時間(成績は9月30日時点)
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