
長谷川穂積
2025年12月27日、日本ボクシングの至宝、井上尚弥が挑戦者のアラン・ピカソに判定勝ちを収め、世界戦の連勝記録を史上最多の27に伸ばした。年の瀬にうれしいニュースとなった一方で、2025年は格闘技界で重大事故が相次いだ年でもあった。スポーツ紙記者が話す。
「12月31日、RIZINの朝倉未来(みくる)選手が王者のラジャブアリ・シェイドゥラエフ選手に1Rで失神TKO負け。試合後に眼底骨折を負ったことが判明し、レフェリーストップのタイミングに賛否の声が寄せられました。また、12月13日のBreakingDownの前日計量で、やるべしたら竜選手が対戦相手の江口響選手に不意打ちでビンタされ、床に倒れた際に後頭部を強打。15日に外傷性くも膜下出血と診断されたと明かしました。
ボクシングでは、5月24日におこなわれたIBFミニマム級タイトル戦で、重岡銀次朗選手が試合後に意識を失い緊急搬送。開頭手術を受け、いまだ入院生活を送っています」
さらに、ボクシング界に衝撃が走る事故が起こったのは8月2日。東洋太平洋スーパーフェザー級タイトルマッチに臨んだ神足茂利選手と、日本ライト級挑戦者決定戦に出場した浦川大将選手が、いずれもこの日の試合後に急性硬膜下血腫を発症し、帰らぬ人になってしまったのだ。
「死んでしまったらダメなんです」
そう語るのは、ボクシングの元3階級世界王者で、現在「KOBE長谷川ボクシングジム」で会長を務める長谷川穂積だ。現役時代、プロとして41戦を戦った長谷川だが、当時はどのような対策はおこなっていたのか。
「とくに対策はしていませんでしたが、僕の場合は試合につくセコンドにタオル投入のタイミングをまかせていました。練習をずっと見てくれている人が『危険や』と判断して投げて、負けるのなら納得できます。でも、タイミングは難しいですね。『危ない』と判断してタオルを入れたセコンドに対して『まだできたのに』と感じてしまう選手もいるかもしれません。そこは『このトレーナーが投げたんやったらしゃあないな』と思えるような、信頼関係を築かないと成立しないですね」
長谷川がとくに「危なかった」と思い出すのは、2010年4月のWBCバンダム級王者としてフェルナンド・モンティエル相手に防衛戦をおこない、TKOで敗れた試合だ。
「11度めの防衛戦だったのですが、腕がロープに絡まって、その間にコンビネーションをまとめられました。『意識が遠のいてるな』と感じたときに、レフェリーがストップをかけたのです。あのままストップがかからなかったら、意識が飛んでいましたね」
長谷川は事故が起きてしまった場合でも、すぐに対応できる準備をしておくことが大切だと指摘する。
「ドクターや救急車の配備は、改善の余地があると思います。帝拳ジムさんが興行されるときは、救急科の専門医と救急救命士を配備すると発表されましたが、こういったことはすごく大事だと思います」
また、ボクシングは事故に至らなくても、脳へのダメージは覚悟しなければいけないという。
「2、3戦しかしていない選手でも、試合をやってない選手に比べたら、脳へのダメージは絶対にあります。それと、お酒はダメージを大きくしますね。脳へのダメージは、すぐにではなくジワジワと後から出てきたりしますが、それがお酒を飲むことで加速されると考えています。なので僕は現役引退後、お酒は週に1、2回くらいに留めています」
そういった危険性も十分に認識したうえで、長谷川は現在、ジムの会長として後進の育成に携わっている。
「まだジムはプロ加盟して1年。プロの選手はいませんが、選手のことを考えれば、タオル投入が遅すぎるのはダメだけど、早すぎて悪いことはないと思っています。プロで戦う選手が所属したら、危ないときには、僕はタオルを早く投げることをやっていきたいと思います。1敗はつきますが、たかだかスポーツの1敗じゃないですか。人生の1敗じゃない。遅すぎるストップやったら、早すぎるストップでいこうと思ってますよ!」
5敗しても3度、世界王者の栄冠をつかんだ男の“金言”を、格闘技界は重く受け止めるべきだ。
取材&写真・北浦勝広
![Smart FLASH[光文社週刊誌]](https://smart-flash.jp/wp-content/themes/original/img/common/logo.png)







