スポーツ
横浜高校の名監督が球児に贈ってきた言葉は「人生の勝利者たれ」
スポーツFLASH編集部
記事投稿日:2018.08.14 06:00 最終更新日:2018.08.14 06:00
「栄光より挫折、勝利より敗北。成功より失敗から学んだことのほうが多かった」
約50年の長きにわたる監督人生を、こう振り返る横浜・渡辺元智元監督(73)。その間、指導法も時流に合わせて変えてきた。1973年、永川英植投手を擁して春を初制覇したころ、スパルタ指導に明け暮れた。
7年後に夏を初制覇した愛甲猛の世代は、会話による指導を重視。その後、厳しさのなかにも伸び伸び自由にやらせる指導も試みた。
最後に辿り着いたのは松坂大輔の時代。厳しさと愛情とチームワークを織り交ぜた指導が結実する。春夏連覇と、公式戦44連勝という偉業を成し遂げた。だが、指導理念は一貫して変わらない。
「目標がその日その日を支配する」
この言葉を信条に指導にあたってきた。大正時代の思想家・後藤静香の詩を引用したもので、部訓にも掲げられる。
松坂が高2の夏、県大会の優勝候補筆頭に挙がるも、準決勝で敗退。周囲から大バッシングを受けた。以後、大事な一戦を控えるたび、別の言葉も投げかける。
「人生の勝利者たれ」
要は、諦めたら終わり。目標に向かって耐え忍ぶ、我慢と忍耐心を植えつけるためだ。同時にベンチ外の選手にも、高卒後に第二の人生を歩むうえでの心構えとして贈った。これを今でも真摯に受け止めているのが筒香嘉智。渡辺氏によると、筒香は会うたびにこの言葉を口にするという。
「自分は野球バカで人生を終わりたくない。一人の人間として人生を全うしたい。そのためにも、謙虚な姿勢で野球に取り組みます」
スター選手であることに自惚れることなく、自戒の念をこめて言うそうだ。
主力選手を怪我などで欠き、チーム力が弱い年もある。そんなときにかける言葉が、「絶対に諦めるな。全国制覇を目指そう。高い目標に向かって逞しく前進しなさい」。
こう鼓舞して選手一人ひとりの士気を高める。何事も諦めず、目標に向かってチャレンジしつづけることで、人生の価値を導き出せると力説する。自らの失敗の連続から得た教訓だ。
「苦しみのなかへ積極果敢に突入していくところに、野球(人生)の徳が醸し出される」
どんなに辛い局面でも逞しく生き抜くことの大切さを説こうとする言葉の端々に、人を引きつける磁力がみなぎる。
わたなべもとのり
1968年、24歳の若さで監督就任。甲子園通算成績51勝22敗。勝率.699。優勝回数5回(夏2回、春3回)。現在は、青少年の野球指導のため、全国を行脚する
(週刊FLASH 2018年8月14日号)