9月29日にJRA通算4000勝の偉業を達成した天才ジョッキー・武豊。その獲得賞金は約830億円にのぼる。
「昨日より今日、今日より明日、少しでもうまいジョッキーになっていたい」
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デビューから向上心を宣言しつづけてきた男の横には、いつも強い馬たちがいた。スーパークリーク、メジロマックイーン、オグリキャップ、スペシャルウィーク、ウオッカ、ディープインパクト、キタサンブラック……。
怪物伝説を築いた牝の「スーパーホース」たちを、武のコメント付きで紹介する!
●ウオッカ
64年ぶりに牝馬で日本ダービーを制した最強馬と、天才ジョッキーの夢のタッグ。このコンビが真価を見せつけたのは、2008年秋の天皇賞。
同じく牝馬のダイワスカーレットとの火の出るような叩き合いを演じ、ほぼ同時にゴール。
「僕自身は同着かなと思ったんですが、検量室に戻ると、周りの空気がダイワ有利に傾いていて。あのときほど時間が長く感じられたことはなかったですね」(武・以下同)
15分にも及ぶ長い写真判定の結果、わずか2センチの差でウオッカに軍配が上がった。
(通算3勝/天皇賞・秋、ヴィクトリアマイル、安田記念)
●オグリローマン
オグリキャップの父違いの妹。兄と同じく地方競馬の笠松競馬場でデビューしたオグリローマンが中央移籍後、武とコンビを組んだのは4回。そのうちの1回が1994年の桜花賞だ。
「オグリキャップのファンが応援していたんでしょう、当日は3番人気。でも、まさか勝つとは思っていませんでした」
兄同様、強運を持った彼女はゴール直前で運を引き寄せた。武自身も驚いたという。
「競馬って本当に難しいし、ゴールするまでわからないと思いました」
(通算1勝/桜花賞)
●ベガ
1993年、初めて武に「オークス」の勲章をプレゼントしたベガ。長い距離のほうが向いているといわれていた彼女に騎乗した武は語る。
「すべてが思い描いていたとおりに運んだレース展開だった」
そして、続く桜花賞(1993年)もこのコンビで制覇した。
「GIという最高の舞台で、ここまで負ける気がしなかったというレースは珍しいですね。僕とベガは何もしていないのに、すべてがいいほうにと転がっていきましたから」
6年後、武に日本ダービー連覇の勲章をプレゼントしたアドマイヤベガは、彼女の第一仔である。
(通算4勝/4歳新馬、チューリップ賞、桜花賞、オークス)
●エアメサイア
デビューから引退まで、武が手綱を握り続けた牝馬の一頭。ディープインパクトで沸いた同年、牝馬クラシック戦線で、武のパートナーを務めたのがこのエアメサイアだった。
「桜花賞でラインクラフトに負け、挑戦者として挑んだ秋華賞(2005年)。正直、もう負けられない、負けたくないという気持ちが強かったですね」
ゴール手前、数メートルでぐいっと首を伸ばし、ゴール板を駆け抜けたエアメサイア。鞍上の武が、渾身のガッツポーズを繰り返した。
(通算4勝/2歳新馬、エルフィンS、ローズS、秋華賞)
●ファレノプシス
「勝つために、イチかバチかの勝負をしました」
武がこう語るのは、ファレノプシスとのコンビで挑んだ1998年の秋華賞。レースは想像していなかった超スローペースだった。後方でレースを進めていた武は、一瞬悩んだが、覚悟を決めた。
「最後までもたなかったら、そのときはしょうがない」
前に進出し、最終コーナーで先頭に立つと、そのまま押し切った。ライバル馬の調教師たちが「馬は負けていない。武豊にやられたんだ」と歯嚙みするほど、鮮やかな勝利だった。
(通算3勝/桜花賞、ローズS、秋華賞)
●ファインモーション
「本気で追ったら、いったいどこまで伸びるんやろう? 想像するだけでわくわくした」
武が半ば本気でそう語るのがファインモーション。
デビューから5戦無敗で秋華賞制覇(2002年)。続くエリザベス女王杯で、名伯楽・伊藤雄二調教師から、初めて「全力で追ってほしい」と告げられた当時を振り返った武はこう語る。
「瞬間、ぞくっとしたのを覚えています」
ファインモーションは受胎するのが難しい体質で、仔を残すことはできなかったが、彼女の走りが色褪せることはない。
(通算5勝/2歳新馬、秋華賞、エリザベス女王杯、阪神牝馬S、札幌記念)
●ダンスパートナー
コンビを組んで勝ったのは、わずかに1度のみ。しかし武は、世界的な良血馬・ダンスパートナーをこう評価した。
「彼女も間違いなく名牝の一頭でした。唯一勝ったオークスは、けっこう、いや、かなり自信がありました。
でも、いちばんの思い出は、フランスのGI(ヴェルメイユ賞)で、1番人気に支持されたことですね」
レースの結果は、大雨による馬場の悪化で6着。しかし、このときに得た自信は、武にとってとてつもなく大きかった。
(通算1勝/オークス)
●エアグルーヴ
「なんてきれいな立ち姿なんだろう」
それが、エアグルーヴを最初に見た武の感想だった。伊藤雄二調教師が漏らした「これで男のシンボルがついていたら、日本ダービー確実」というひと言には、最初は半信半疑だったと振り返る。
しかし、彼女は紛れもなく本物だった。少女から成熟した女に進化した。牝馬としては17年ぶりとなる、天皇賞(秋・1997年)を制覇。
「能力のある女の仔は、男馬が相手でもびくともしない。時代の先駆けとなるような、最高に素敵な女性でしたね」。
(通算8勝/3歳新馬、いちょうS、オークス、マーメイドS、札幌記念2回、天皇賞・秋、産経大阪杯)
●シーキングザパール
フランスのモーリス・ド・ゲスト賞を勝ち、日本初の海外GI馬に輝いたシーキングザパール。いい意味でも、悪い意味でも、彼女は飛び抜けた存在だった。
デビュー2戦めの中山でのレース中に事件は起こる。大きく出遅れたシーキングザパールは、何を思ったか、外ラチに向かって一直線に走りだした。
「あのときは本当に焦りました(苦笑)。思わず、『ウソやろ』って叫んでいましたからね」
必死に手綱を絞り、大事故には至らなかったが、武にとって恐怖の一瞬だったに違いない。
(通算7勝/3歳新馬、デイリー杯3歳S、シンザン記念、フラワーC、NZT4歳S、NHKマイルC、シルクロードS)
●シャダイカグラ
ゲートが開いた瞬間、スタンドから悲鳴が上がった。大きく出遅れたのは大外枠、武が騎乗するシャダイカグラ。しかし、慌てず内側へと誘導すると、最後の直線で一気に先頭へ。武は、自身初となる桜花賞制覇(1989年)を成し遂げた。
武が出遅れに関して多くを語らなかったことで、「伝説の出遅れ」として語り継がれてきた。
「みんなが伝説とか奇跡とか言ってくれるので、それはそれでいいかなと(笑)。でも、本当はただの出遅れです」。
(通算6勝/りんどう賞、京都3歳S、エルフィンS、ペガサスS、桜花賞、ローズS)
(週刊FLASH 2018年10月9日号)