ノムさんは新人プロ選手について、変わらぬ信念を持つ。
「ドラフトでは『うちは投手陣が弱いから、投手を中心に獲ってくれ』とは言うけど、『誰を』とは言わない。ただ、必ず言うことがある。それは、『一芸に秀でた選手を見つけてくれ』ということ。
たとえば、球が速い、足が速い、ボールを遠くに飛ばす……といったことだ。これらは天性のもの。こうした能力は、いくらこちらが鍛えても、本人がいくら努力しても限界がある。
でも、天性以外は鍛えられる。やり方次第で、伸ばすことは十分可能。それは早ければ早いほうがいい」
その意味でも、2019年の「BIG3」はノムさんのお眼鏡に適うだろう。吉田のしなやかなフォームと無尽蔵のスタミナ。根尾昂(18)の類い稀な野球センス。藤原恭大(18)には飛び抜けた俊足がある。
また、ノムさんの監督人生では、一芸に秀でた2人の高卒新人との出会いがあった。
「ヤクルト時代の石井一久を初めて見たとき、『これはいい!』と思ったね。まず球が速い。これがなによりだった。しかも、どんなときも動じず、『我、関せず』といった性格。投手向きだったよ。
それと楽天時代のマー君(田中将大)だな。速球はもちろんのこと、スライダーがずば抜けていた。かつての伊藤智仁を思い出した。スライダーはカーブ系の遅いものと、ストレート系の速いものがあるけど、マー君のは後者。これは使えると思った。だから開幕から一軍に置いたわけだ。
当初『KO』が続き、マスコミから『二軍に落とすべきだ』とさんざん叩かれた。でも、経験を積めばよくなると確信していたから『大きなお世話だ!』と突っぱねた(笑)。結果、球界を代表する投手に成長しただろう?
まさに『経験に勝る財産はなし』だ。マー君は弱い楽天に入り、俺に出会って運がよかったと思うよ。巨人なら二軍に落とされていただろうからな」
高卒選手が入団すると、ノムさんは野球の技術より先に、「教育」から始めるという。
「まず、『とは教育』から。すなわち、『人間とはなにか』『野球とはなにか』から始まって、『投球とは』『打撃とは』『走塁とは』といった各論まで、野球の本質とは何かを選手たちに徹底的に問い、考えさせ、理解させる。
ラグビーやサッカーなどの球技と違って、野球には一球一球に間がある。では、なぜ間があるのか。考えるためだ。一球ごとに『その間に考え、準備し、最善のものを選択せよ』。そのために間があると、俺は信じている。
2019年も吉田、根尾、藤原といった有望な選手がプロの門を叩いた。彼らに言いたいのは、技術の習得は当然のことながら、『とは?』と『考えること』の重要性に気づき、取り組んでほしいということ。
肉体的な疲労はあるだろうけど、それ以上に頭の疲労が出てくるまで、徹底して考えることに取り組んでほしい。ただ心配なのは、それを教えられる監督がいるかということ。それほど、いまの球界は監督の人材難だからな(苦笑)」
(週刊FLASH 2019年3月19日号)