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趣味はお菓子作りと刺繍「玉鷲」突き押しひと筋15年

スポーツ 投稿日:2019.03.10 06:00FLASH編集部

趣味はお菓子作りと刺繍「玉鷲」突き押しひと筋15年

 

 稀勢の里ロスを嘆く角界に、ニューヒーローが誕生した。2019年1月場所で優勝を飾った、片男波部屋の関脇玉鷲(34)だ。休場する力士が続出するなか、この力士は初土俵以降、通算1151回の連続出場という鋼の肉体の持ち主なのだ。

 

 そんな玉鷲本人に、密着取材を敢行した。

 

「優勝してからは、どこへ行っても見つかっちゃうんですよ。『あ、玉鷲だ』『スーパーで買い物してる』って。ハッハッハ。買い物なんて、いつもしてるのにね(笑)」

 

 

「笑顔」の力士だ。取組後のインタビュールームでも、ニコニコしているのはお馴染み。

 

「よくないですね。感情を出しすぎです。相手に失礼なことはいけない。それが日本の相撲の文化ですから。だから先場所は我慢したんですよ。横綱(白鵬)に勝った後も、あまり笑ってないでしょ。なあ、そうだよな」

 

 そう話を振られた付け人いわく、「そのぶん(力士控室の)風呂場では大声出してました」と暴露され、また大笑い。

 

 誰からも愛される陽気な性格だが、優勝を決めた直後には大粒の涙を流した。入門から15年、34歳2カ月は、史上2番めの高齢での初優勝だった。しかも、千秋楽で優勝を決めた朝に、第二子が誕生していた。

 

「優勝して部屋のパーティに行って、それからNHKの番組に出て。もう病院は閉まってる時間だから、長男を迎えに行ってそのまま家に帰りました。優勝した日の夜に、おとなしく家にいるなんてね。そう考えたら、なんだかおかしくなっちゃった」

 

 入門の経緯は異色だ。19歳で、モンゴルから来日するまではホテルマンを目指して大学に通っていた。相撲経験なし。スポーツ経験もほぼゼロ。だが、「この大きな体を生かせないか」と考えたという。

 

「そのころ、姉が東京の大学に留学していたこともあって、日本に来たんです。相撲関係の知り合いはいなかったけど、とりあえず両国に行って駅を出たら、(びんつけ)油のいい匂いがしました。力士を見つけて後をついていったら、相撲部屋がありました」

 

 そこは井筒部屋で、当時幕下だった鶴竜と出会い、それが縁となり、2004年に片男波部屋に入門することが決まった。

 

「テレビで相撲を見ていたときは、力士の体ってやわらかいと思ってたんですよ。でも、実際にぶつかってみたら、なんだこれは石じゃないかって、すごいショックでした。稽古も厳しいしね。正直に言うと、モンゴルに帰りたいと思ったこともあります」

 

 乗り越えることができたのは、家族への思いがあったからだという。

 

「自分がモンゴルに戻ったら、『あんたの息子は帰ってきた』って、お母さんが言われてしまう。それはいけない。だからなんとしても、やめるわけにはいかなかったんです」

 

 初土俵から15年間、休場なし。まさに「無事之名馬」、ならぬ、名鷲である。

 

「特に何かをやっているわけではないですよ。自分が突き押し相撲だからでしょう。まわしを取ると、どうしても土俵際で残そうとするから、そこでへんな投げなんか食らって怪我しちゃうでしょ」

 

刺繍は下地から自分でデザインを考える

 

 突き押しひと筋の取り口は、モンゴル力士にしては珍しい。ちなみに、寄り切りでの勝利は2年以上ない。

 

「握力が90キロあるんですよ。よく、『突き押しに握力はいらないだろう』って言われるんですが、指先に力をこめて相手を押すんですよ」

 

 新三役は30歳のとき。新関脇に昇進した2017年1月場所は、32歳だった。「モンゴルの男は30歳を過ぎてから強くなる」といわれるが、まさにそれを地でいく形だ。

 

「確かに、モンゴルにそういう言葉はあるね。でも、日本人でも同じだと思うんですよ。若いときは勢いだけ。でも30歳くらいになれば、いろんな経験をして考え方も変わってくる。

 

 それに家族もできるでしょう。昔、お母さんに恥ずかしい思いをさせたくないから頑張った。今は自分の家族を守りたい。それで力が出るんだ」

 

 そんな玉鷲は、「しょうがない」という日本語が嫌いだという。

 

「しょうがないってことは、そこで諦めるわけですよ。なぜ諦めるの。頑張ればなんとかなるんだよ」

 

 明るいだけではない。熱い男なのである。以前から気になっていたことを聞いてみた。

 

−−綾瀬はるかが好きなんですか? 

 

「いやいや、違うから。たまたまあの日、そのドラマを観てただけだから」

 

 日馬富士の貴ノ岩殴打事件の夜、じつは玉鷲も誘いを受けていたが、「綾瀬はるかのドラマを観たいから」という理由で断わった……という話が、勝手に解釈されて「綾瀬が好き」と広まったというのだ。

 

「ドラマもお笑いも好きですよ。『ドクターX』とかね。『失敗しないので』ってやつだよね。初場所で失敗しなかったのもそのおかげ(笑)」

 

女子力が高すぎるスイーツ力士(本人提供)

 

 趣味は、お菓子作りに料理に刺繍と、可愛らしい一面も。お菓子作りと料理はプロ並みで、「まだ途中だけど」と見せてくれた刺繍(冒頭の写真)の、細やかさと丁寧さは見事。さらに、絵も上手という多才ぶりだ。

 

 関脇で優勝し、三月場所の成績次第では、大関の声も聞こえてくるはずだ。

 

「いや、そういうことは今は考えられないですよ。それに、自分は上の(番付の)人たちと戦うのが楽しみですから。

 

 それが少なくなったら困るでしょう(笑)。今はとにかくこの力を維持して、長く土俵に上がっていたい。次男が生まれたばかりだから、あの子が相撲をわかるくらいまではやりたいな」

 


玉鷲一朗(本名バトジャルガル・ムンフオリギル)
34歳 1984年11月16日生まれ モンゴル・ウランバートル出身 片男波部屋所属 188センチ172キロ 2004年一月場所で初土俵。2008年九月場所で新入幕。最高位は東関脇。2012年に元モデルのモンゴル人女性と結婚、現在2児の父親

 

写真・舛元清香

 

(週刊FLASH 2019年3月19日号)

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