中学卒業と同時に各界入りを希望していた貴景勝だったが、山田監督の熱意に押され、入学を決めた。山田監督は、生徒との会話を大事にする。
「彼らの部屋は、プライベートの空間ですから入りません。それ以外では、できるだけ声をかけます。私たちにとって生徒は家族の一員であり、息子同然なんです。寮に帰ってくれば『お帰り。お疲れさん』とひと声かける。そうすれば、稽古で厳しいことを言われても忘れることができる」
たびたび訪れるOBたちのサポートも重要だという。
「稽古で胸を貸すようなことはないですが、筋トレは一緒にやります。伝え聞くのではなく、自分の目で見ることが重要ですから。相撲は感覚の勝負なので」
また、毎月450kgの米を消費する後輩たちに、十両昇進を果たした力士は、みんなで500kgの米を差し入れするのが相撲部の伝統である。
「いちばんすごいのは豪栄道で、次に妙義龍。豪栄道はひとりで、年間何度も500キロの米を送ってくれます。貴景勝も、昨年の九州場所で優勝した際には、米600キロと宮崎牛の肉を送ってくれました。本当にありがたいです。
その行為に後輩たちは憧れるし、卒業生も早く十両に上がって差し入れしたいとなりますから。まさに相乗効果ですね」
山田監督は、最近よく聞かれることがあるという。それは、なぜそこまでできるのか、ということだ。
「やっぱり相撲が、指導することが好きだからでしょう。子供たちが大きく成長し、卒業生は角界で頑張っている。それを見るのがなによりも嬉しいですから」
埼玉栄高校が強豪といわれる所以は、環境やOBたちのサポートがあることだ。しかし、なによりも山田監督の愛情が、根本にあることだけは間違いない。
(週刊FLASH 2019年5月28日号)