「アイツのフルスイング見ました? あれはヤバい!」
あるとき、ソフトバンクの主砲・柳田悠岐(30)が、番記者に語った。以前、横浜スタジアムのバックスクリーンを打球で破壊した、パワー自慢の柳田が驚愕するのだから、そのヤバさは規格外だ。
そのアイツとは、2016年に入団したオリックス・バファローズの吉田正尚(26)。173cmと、プロ野球選手としては小柄。怪我で出場試合数が全日程の半分にも満たない年がありながらも、本塁打数は毎年二桁をマーク。2018年には、念願のフル出場を果たし、「26本塁打」と主力としての礎を築いた。
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本人はこう語る。
「柳田さんの発言は、リップサービスですよ(笑)。実績を残してきた方の言葉なので嬉しい。でも、その柳田さんを超えないとタイトルは獲れないし、プロである以上、魅力ある選手にならなくてはいけない。
たとえば大差で負けていても『吉田の最後の打席だけは見て帰りたい』と言ってもらえる選手になること、1打席も無駄にしないことが目標です」
その思いは、今季の成績に繫がっている。打撃3部門で上位に顔を出し、オールスターの「ホームランダービー」では4スイング連発で、ファンの度肝を抜いた。激しい寒暖差で体調を崩しそうだった7月も、打率.357、7本塁打、21打点を記録し、月間MVPに輝いた。
活躍の裏には、2018年10月に結婚した妻・ゆり香さん(27)の存在がある。彼女は管理栄養士であり、その資格を生かした、会社経営者でもある。
「野球選手としては、食が細いほうなんです。自宅で夕食が摂れるときは、朝に体調を妻に相談すると、それに合った食事を作ってくれています。
疲れが取れないとき、遠征が続いたときならビタミン系を多くするとか、消化にいいものとか、すごく考えて作ってくれる。お気に入り? なんでもおいしいですよ(笑)。
でも、いちばんは、(手羽先に餃子の餡をつめた)手羽先餃子。ニンニクがきいた料理が好きなので。夏場でも好調を維持できているのは、妻のおかげ。手羽先餃子がパワー、フルスイングの源になっています」
今季開幕前には、侍ジャパンの主軸をまかされた吉田は、探究心の塊だ。2016年オフには、「どうしても教えを受けたかった」と、ハンマー投げの室伏広治(44)にダメ元で直筆の手紙を送付。熱意が認められ、2017年1月から始まった指導は、2019年で3年めとなった。
「『もっとよくなるには、体幹の強化が必要だ』と感じ、お願いしました。室伏さんは金メダリストであり、(東京医科歯科大の)教授でもあって、感覚的な話も、理論的な話もできる。しかも実践してくれる。すべてを兼ね備えています。徐々にではありますが、体の強化を実感しているところです」
2019年、吉田には「30本塁打をクリアしたい」という明確な目標がある。なぜなら、2019年から認定NPO法人「国境なき子どもたち」に、本塁打1本につき10万円を寄付すると決めたからだ。
「きっかけは、昨年12月に参加したイベントで、『世界には、まだつらい思いをしている子供たちが多くいる』と知ったことです。最初に言った『観客を魅了するため』に加えて、子供たちのためにも、僕は1打席も無駄にできないんです」
心優しき “小さな巨人” は、今日もフルスイングを志している。
よしだまさたか
1993年7月15日生まれ 福井県出身 ドラフト1位で、2016年に青山学院大学からオリックスに入団。2018年にベストナイン
(週刊FLASH 2019年8月20・27日号)