「彼女は日本の新しいスター。韓国勢のライバルになる」
米ツアー通算25勝を挙げた韓国女子の “レジェンド” 朴セリ(41)が、こう絶賛するように、いまや日本のゴルフ界のど真ん中にいるのが、渋野日向子(20)だ。
8月5日、渋野は日本人として樋口久子以来42年ぶりとなる、メジャー制覇を達成。凱旋2試合は、まさに “シブコ・フィーバー” 一色だった。
一方、すっかり脇役に追いやられたのが、かつてのスター松山英樹(27)。日本人選手で、もっともメジャー制覇に近いといわれ、日本男子では世界選手権2勝を含む米ツアー5勝を挙げながら、いまだ目標のメジャー制覇には至っていない。さらに7月の全英では、2年連続予選落ちという屈辱を味わっている。
期待されながら優勝に届かない松山と、まったくのノーマークながら快挙達成の渋野。2人の違いを、日本ゴルフジャーナリスト協会顧問の菅野徳雄氏が解説する。
「まず、コーチの有無が挙げられる。なぜか松山は、ここまでプロのコーチをつけず、父親やアマ時代の関係者に教えを請うている。それではプロの世界では生きていけない。
コーチというのは教わるだけではなく、一緒に築き上げていく存在。自分の鏡になってくれる人じゃないといけない。アマのコーチでは、自分の姿が見えない」
対して渋野は、2年前から青木翔コーチ(36)の指導を受け、プロテストに合格。全英では青木コーチがキャディを務めるなど、二人三脚で頂点まで上りつめた。
「また松山は、他人と交わることが苦手のようで、ほかの選手に教えを請うこともしない。
樋口プロは全米を制する直前、深刻なパットのイップスに陥っていた。そこで、米男子のパットの名手、トミー・ジェイコブスに指導を頼み込んだ。それでイップスは直り、メジャー制覇に繋がった。
松山には、もっと一流選手と交流して、いろんな情報を収集してほしい。かつての名手は皆、教わり魔だった」
渋野がいいものを取り入れることに貪欲だったことを、小学生時代に所属していたソフトボールチームの岩道博志監督が語ってくれた。
「当時から天真爛漫で、あの笑顔と人を引きつける魅力は天性だね。男女混合チームで、練習も男女関係ありませんでした。厳しい練習にも、くじけたりすることはなかった。
そのなかで、『どうしてストライクが入らないのだろう』と自分で研究し、考えていた。こちらのアドバイスも聞いて、いいものはどんどん取り入れる素直さもあった。
当時、日本代表エースの上野由岐子のビデオを何度も繰り返し見ていたことが忘れられません」
菅野氏は「プレースピード、思い切りのよさにも決定的な違いがある」とも指摘する。
「松山は決断力がないのか、プレーが遅い。これでは観ているギャラリーもイライラしてしまう。アグレッシブさがないので、一緒にまわる選手にプレッシャーを与えることもできない。パットにしても、『入れてやる!』といった気迫が感じられないしね。
一方の渋野は、プレースピードは速いし、全英の12番でのワンオン狙い、18番の強めのパットでもわかるように、思い切りのよさがある。あのパットは外れれば、何メートルオーバーしたかわからないほどの強さだった。
飛距離も出るし、スイングも素晴らしい。それは体幹の強さがあってのこと。岡本綾子プロがそうだったように、ソフトボールを経験したことが生きているんだろう」
メジャーで勝つための要素を、メジャー初挑戦の20歳が教えてくれた気がしてならない。