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マラソン新ルール制定で「現代のシューズ名工」消滅の危機

スポーツ 投稿日:2020.02.02 11:00FLASH編集部

マラソン新ルール制定で「現代のシューズ名工」消滅の危機

特注靴で優勝した松田瑞生(写真:森田直樹/アフロスポーツ)

 

 1月31日、世界陸上競技連盟(世界陸連)は、シューズに関する新規則を発表した。
昨年から今年にかけて、ナイキの「ヴェイパーフライ」シリーズで好記録が連発し、「厚底シューズ問題」で揺れていた陸上界。

 

 世界陸連が設けたシューズに関する新規則の要点は以下の3つだ。

 

 

(1)レースの4カ月前からオンラインもしくは店頭で購入できるもの(ただし、医学的理由でカスタマイズされたものは許可)
(2)ソールの厚さは40ミリ以下
(3)複数の剛性の埋め込みプレートは使用できない

 

 これが2020年4月30日以降に適用されるようになる。
 ナイキの「ヴェイパーフライ」に関しては、現状発売されているモデルは使用可能。昨年、非公式レースで人類史上初のマラソン2時間切りを達成した際のモデルは使用不可となった。

 

 当初、「厚底規制になる」と言われていたシューズの新規則だが、発表された内容はシューズの性能そのものよりも、「高性能シューズの独占解消」に重点が置かれた形となった。

 

 そこで、思わぬところに影響が及ぶかもしれないという。

 

 1992年バルセロナ五輪、1996年アトランタ五輪の2大会連続でメダルを獲得した有森裕子。2000年シドニー五輪で金メダルを獲得した高橋尚子。2004年アテネ五輪で金メダルを獲得した野口みずき。この3人に共通する1人の人物がいる。シューズ職人の三村仁司氏だ。

 

 1967年にオニツカ(後のアシックス)に入社し、1974年からトップアスリートに向けた特注シューズの製造を始めた。「選手の気持ちを理解した靴づくり」が評価され、先の3人をはじめ日本の多くのトップランナーのシューズ作成にかかわってきた。

 

 特に2000年シドニー五輪前に高橋尚子に作ったシューズは職人魂にあふれている。本番用シューズの完成までに作った試作品は45足。本番コースの路面が硬いことを考慮し、中敷きや靴底も調整。さらに左足が右足より長いことがわかり、左足の靴底をやや薄くした。結果、そのシューズを履いた高橋は金メダルを獲得した。

 

 その後、三村氏は厚生労働省より「現代の名工」の表彰を受け、日本のシューズ界の第一人者になった。アシックスを退社後は自身の工房「M.Lab(ミムラボ)」を設立し、現在は「ニューバランス」の専属アドバイザーを務めている。

 

 実は、1月26日の大阪国際女子マラソンで、東京五輪代表選考の設定記録を上回って優勝した松田瑞生も、三村氏が手がけたニューバランスのシューズを履いていた。だが、今回の新規則は特注シューズの使用を制限する内容となっている。今後、「ある選手のためだけに特別に作られたシューズ」をレースで使用するのは難しくなるとみられる。

 

 マラソン黎明期から日本人と特注シューズのつながりは深い。昨年の大河ドラマ『いだてん』(NHK)で、主人公の一人だった金栗四三も、足袋屋に特注の「マラソン足袋」を作ってもらった。2017年のドラマ『陸王』(TBS系)でも、シューフィッターと選手のやり取りが重要なシーンとして描かれたが、そういった夢とロマンもこの新規則で失われてしまうのかもしれない。

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