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調査対象5000人以上「女性の陰毛研究」に生涯を捧げた男
夜バナFLASH編集部
記事投稿日:2017.03.12 20:00 最終更新日:2017.03.12 20:00
「世界的に見て、もはや陰毛は風前の灯火です」
性風俗文化に詳しいライター・松沢呉一氏が語る。
「欧米の若い世代の90%は陰毛を剃っています。アジアも、たとえば台湾はそうなっている。世界的に日本だけが例外なのです」
しかし、そんな日本にも“無毛社会”の波が押し寄せている。女性誌「steady.」(宝島社)の’16年の調査では、30代前後の女性1000人のうち、じつに55%が「陰毛のケアをしている」と回答しているのだ。
であるなら、’17年は、ある人物とその偉業を振り返る最後のチャンスかもしれない。平井利市氏(1898年~1979年)が創始した「毛相(もうそう)学」である。
「毛相学」とは、手相や人相のように、女性の陰毛を診て、性格や運勢、性癖を診断するものだ。と聞くと少し怪しげだが、平井氏いわく、毛相学は「民俗学、遺伝学、心理学(中略)で裏づけながら、統計学的に考察していくもの」。調査した女性の数は、実質唯一の著書『随筆 毛相学入門』(日本文芸社、’64年)の刊行時点で、5000人にのぼる。
平井氏が女性の陰毛を診るようになったきっかけは、京都大学在学中に旅行した出雲での出来事。野天風呂の女性客たちの陰毛が、ことごとく薄いことに衝撃を受けたのだ。
ダーウィンなどの文献を読み、生物学の講義を受講するなか、平井氏は女性の陰毛研究に生涯をかけることを決意。父の遺産をもとに、祇園や先斗町(ぽんとちょう)など色街の女性たちの陰毛を調べはじめ、「春草の統計学的一考察」という論文にまとめる。春草とは女性の陰毛のことだ。
平井氏の鑑定法は、まず女性のヘアを、上品相、中品相、下品相に分類。さらに、毛の生えている向きによって上生、中生、
下生の3つに細分化し、整-乱、剛-軟など、12組の毛の性格を加味していくというスタイルだ。
大学卒業後、横浜ゴムに就職した平井氏は、全国各地を出張で飛び回るようになる。
高知県では、「上品相、上生、髪の毛くらいの“長”」の女中と出会う。これは能動的で精力絶倫の「男を食い尽くしてしまうタイプ」だ。この女中と散歩中に“愛を囁いた”あと、部屋に戻ると「先生、ぜひ私を…」と鑑定を依頼する内気な女中が現われる。平井氏は「中品相、“密”にして“潤”」の陰毛をひと目見るや、地元高知の出身ではないことを言い当てる…。
このようにして平井氏の毛相学は評判を呼び、’50年代からメディアに登場する“知る人ぞ知る存在”になる。その晩年には、伝説の深夜番組『11PM』にも出演。昭和のエロ文化に詳しいライターの橋本玉泉氏はこう証言する。
「私が目撃したのは、たしか’76年の放送。女性の股間を厳しい表情で覗き込む平井氏が、フッと口元に笑みを浮かべたんです。その表情を司会の大橋巨泉氏が絶賛して、数年後に平井氏が亡くなったときには、番組内で追悼特集も組まれていました」
平井氏の死後、3000人分あった陰毛コレクションは夫人によって破棄されたという。だが、前出の松沢氏は、平井氏の陰毛研究ノートを所有している。
「陰毛に関するデータがこまごまと書かれていて、ものすごい情熱、執念を感じました。ただ、毛相学が成り立ったのは、陰毛が“隠された存在”だったから。今の時代に、平井氏のままのかたちで復活させるのは難しいかもしれません」
(週刊FLASH 2017年2月28日号)