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【数字は踊る】目の前で人が倒れた!あなたならどうする?
連載FLASH編集部
記事投稿日:2016.06.16 20:00 最終更新日:2016.06.16 20:00
●突然死を防ぐためのひとつの手段
アルファベットを3つ並べた略称をよく見る。
たとえば昨年、3人の日本人物理学者がノーベル賞を受賞した発光ダイオードの「LED」。これは英語の「Light Emitting Diode」の頭文字を3つ並べたもの。LEDはノーベル賞で話題になっただけでなく、照明用に日常生活で使われているから誰でも知っているが、では頭の「L」が「A」に一文字代わった「AED」とは何か?
2011年夏、サッカーの元日本代表・松田直樹選手が、長野県の公園グラウンドで練習中に、急性心筋梗塞のため亡くなったことを覚えている人は多いだろう。
心筋梗塞の初期には「心室細動」といった危険な不整脈が起こりやすい。公園にはAEDが用意されていなかった。AEDとは「Automated External Defibrillator(自動体外式除細動器)」の略である。
この医療機器は心臓が痙攣し血液を流すポンプ機能を失った状態(心室細動)になった心臓に対して、心臓に強い電流を瞬間的に流して規則正しいリズムに戻す(除細動)ためのものである。これがあれば助かったかもしれないのだ。
AEDは米国の心臓協会が心臓突然死の救命率向上の有用性を認めたことから、1990年代に空港やラスベガスのカジノに置かれるようになった。
日本で一般市民に解禁されたのは2004年のことである。この年に公共施設などに設置され、一般市民が使えるAEDの販売台数は1097台で、消防、医療機関の販売台数と合わせても7151台にすぎなかった。
しかし、2012年12月には44万7818台に達し、なかでも一般市民が使用できる台数が急増したが、市民によって実際に使用された例はまだまだ少ない。
●5分間が勝負
心肺機能停止状態のとき、除細動までの時間が1分経過するごとに生存率は約7~10%低下し、心臓が血液を送らなくなると3~4分以上で脳の回復が困難になるといわれる。
ところが、消防庁の「平成26年版救急・救助の現況」によると、救急車が通報から現場に到着するまでの時間は年々遅くなり2013年は全国平均で8.5分要した。
さらに医療機関などへの収容所要時間は39.3分である。心肺蘇生には、目安として5分以内の電気ショックが必要といわれるから、救急車を待ってはいられない。そこでAEDを使った市民の協力が必要となる。
上記の消防庁の「現況」によれば、2013年に心肺機能停止の瞬間が一般市民により目撃された傷病者は2万5469人。このうちAEDによる電気ショックをおこなうことができたのは907人、わずか3.6%にすぎない。
きわめて少ないが、そのうち1カ月生存者は455人を数え、1カ月後生存率は50.2%におよぶ。心肺蘇生がおこなわれなかった場合の1カ月後生存率は8.9%であるから、約5.6倍の高さになる。
また1カ月後の社会復帰者は388人、復帰率は42.8%。心肺蘇生が実施されなかった場合の1カ月後の復帰率4.8%と比較すると約8.9倍も高い。
AEDが心肺停止状態の死亡率低下に有効なのは数字が示すとおりであるが、問題は実施例の少なさである。
昨年4月におこなったNHKの電話調査(全国の20歳以上の男女3001人を対象)では誰かが突然倒れた場合、AEDを使うことが「できない」と答えた人は53.4%、その理由は「使い方がわからない」が52.9%、「使うべきかどうかわからない」が21.7%だった。
AEDは器械の音声ガイダンスに従うだけで誰にでも使えるし、症状がわからなくても傷病者の心臓の状態を判断し、必要がない場合は作動しない。勇気さえあれば誰にでも簡単に使えるのだ。もしあなたが目撃者になったら、さて、どうする?
(週刊FLASH2015年2月3日号)