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「ゲス不倫」を炎上させなかった大物政治家の説得力

社会・政治 投稿日:2016.03.20 15:00FLASH編集部

「ゲス不倫」を炎上させなかった大物政治家の説得力

写真:AFLO

 

 大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、連発する「ゲス不倫」について深読みする。

 


 

 

 不倫・不倫・不倫――2016年上半期は、不倫のオンパレードだった。

 

 タレントのべッキーとゲスの極み乙女のボーカル川谷絵音の不倫に始まり、奥さんが妊娠中であるにもかかわらず、元タレント女性と不倫しまくっていたチャラ男・元衆議院議員の宮崎謙介。

 

 はては落語家の桂文枝師匠までが、38歳の演歌歌手・紫艶との年の差不倫を報じられた。  ドラマ失楽園や「不倫は文化」発言が流された1990年代を思い起こさせる。

 

 不倫の結果、べッキーは契約中のCMを打ち切られ、番組も休業状態。宮崎謙介は、謝罪会見を開き議員辞職を表明。文枝師匠は落語界からの追放はないが、「妻が電話に出ない」という家庭危機状態。

 

 不倫の代償はあまりにも大きかった。

 

 浮気や不倫を肯定するつもりはないが、歴史を振り返れば、有名人の不倫沙汰は数限りないし、不倫が文化芸術を生み出してきた側面も否定できない。

 

 じつは、かつて不倫で男をあげた例もあるのだ。いったいどういうことか。

 

●愛人の数を自ら暴露した大物政治家

 

 かつて、ヤジ将軍・政界の大狸と異名をとった政治家がいた。三木武吉(1884~1956)である。自由民主党結党による保守合同――いわゆる55年体制を作り上げた最大の功労者として著名である。

 

 ところが、1952年、衆院選の立会演説会の際、対立候補・福家(ふけ)俊一が次のような言葉で暗に三木を攻撃した。

 

「ある有力な候補者は、妾を4人も持っている。このような不道徳な輩を国政に出す訳にはいかない」

 

 続いて演壇に立った三木は慌てふためくかと思いきや

 

「私の前に立ったフケ(=福家)ば飛ぶような候補者が、ある有力候補と申したのは、この三木武吉であります。

 

 なるべくなら、皆さんの貴重なる一票は、先の無力候補に投ぜられるより、有力候補たる私にと三木は考えます。  なお、正確を期さねばならんので、さきの無力候補の数字的間違いを、ここで訂正しておきます。

 

 私には、妾が4人あると申されたが、事実は5人であります」

 

 余裕綽々で大胆にも愛人の数を自ら暴露したのだ。三木は言葉を続ける。

 

「5人の女性たちは、今日ではいずれも廃馬と相成り、役には立ちませぬ。が、これを捨て去るごとき不人情は、三木武吉にはできませんから、みな今日も養っております」

 

 この言葉を聞いた聴衆は、非難するどころか三木を拍手したし、無事に当選させた。

 

 2016年の不倫と何が違うのか。時代背景だけでなく、人間の正直さと情の違いが大きいのだろう。

 

 不倫発覚時、べッキーも川谷も「親しい友人」とウソをつき、宮崎元議員も「知らない」とシラを切った。その後、恥ずかしいラインのメッセージを公にされ、ギャフンとなってしまった。

 

「不倫は不倫じゃないか!」との反論もあろうが、かつては大人物といえる人間がいたということだ。

 

参考文献:戸川猪佐武『小説 三木武吉』(角川文庫、1983)

 

(著者略歴)濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

 1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数

 

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