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『真田丸』無能大将のあり方から、有能な都知事の条件を探る

社会・政治FLASH編集部
記事投稿日:2016.07.09 14:00 最終更新日:2016.07.09 14:00

『真田丸』無能大将のあり方から、有能な都知事の条件を探る

 大阪観光大学観光学研究所客員研究員の濱田浩一郎氏が、混迷する都知事選を斬る。

 


 

 NHK大河ドラマ『真田丸』で、北条氏政を演じた高嶋政伸さんの鬼気迫る演技が話題となった。氏政といえば、無能な大将の代名詞となっていて、一番有名なエピソードが「汁かけ飯」の話だ。

 

 いわく、氏政がご飯に味噌汁をかけたとき、1度目では足りなくて、もう一度かけ直した。それを見た父親が「汁の量が測れないほど無能な奴に国の未来なんて測れない」と嘆息したというものだ。

 

 氏政には、もう1つ有名な無能エピソードがある。農民たちが畑で麦を刈っているのを目にして、「あの麦を昼飯にしよう」と言ったという。収穫したばかりの麦を食べられるわけないのに……と家臣が驚いたそうだ。

 

 このエピソードは、甲斐の戦国大名・武田氏の知略をまとめた軍学書『甲陽軍鑑』(江戸時代初期に編纂)に書かれている。信玄の「人は城 人は石垣 人は堀 情は味方 仇は敵なり」という名文句も、やはりこの本に記載されている。

 

『甲陽軍鑑』によれば、武田信玄が子の勝頼に「国を滅ぼす大将は4タイプある」と教えたという。それは以下の4つだ。

 

・馬鹿な大将

・利口すぎる大将

・臆病な大将

・強すぎる大将

 

 馬鹿な大将とは、物見遊山や芸能にうつつを抜かす大将のこと。それこそ、志村けんの「バカ殿」の世界だ。  利口すぎる大将は、つい自分の意見に自信を持ちすぎ、家臣の言うことを聞かなくなる。その上、100の給料を払うべきところを50しか払わず、下の者を困窮させるからダメだという。

 

 臆病な大将は、その臆病さが家臣に伝染し、家中が緩み切ってしまう。逆に、強すぎる大将は、勇猛な意見ばかり好み、慎重論を退けてしまう。

 

 一方、『甲陽軍鑑』は「よい大将」にも4つあると指摘する。よい大将の特性は、

 

・心静かなこと(冷静)

・つよきこと(勇敢)

・平(たいらか)なること(温和)

・手がるきこと(機敏)

 

 そして、さらに、こんな文章が続いている。

 

「よき大将は軍(いくさ)の時、悉(ことごと)く皆(みな)我ざい(=才能)をもって勝利を得給ひても、主の手柄とはなくして、近習・小姓・小殿原・若党・小人・中間迄(まで)も誉たて……」

 

 つまり、手柄を自分のものにせず、部下を褒めたたえる人間なのだという。

 

 以上のことを整理すると、人の話をよく聞き、いつも冷静沈着で行動力がある人物こそトップにふさわしく、さらに、部下を褒め称え、きちんとその成果に褒賞を与える人物こそが最善ということだ。

 

 参院選のあと、やってくるのは都知事選だ。私は都民ではないが、少なくとも、ここ何代か偉そうで感情的な都知事しかいなかった気がする。  はたして、お眼鏡にかなう立候補者は現れるのか。

 

 せっかくだから、『甲陽軍鑑』から、武田信玄の金言を紹介して筆を置こう。

 

「人はただ、我したき事をせずして、いやと思ふことを仕るならば、分分体体、まっとう身を持つべし」

 

 自分のやりたいことではなく、嫌だと思うことを率先しておこなえば、和を保ちながら日々を過ごせる、という意味だ。この言葉を、次の国会議員様と都知事様に贈っておきたい。

 

 


(著者略歴)

濱田浩一郎(はまだ・こういちろう)

 1983年生まれ、兵庫県相生市出身。歴史学者、作家、評論家。現在、大阪観光大学観光学研究所客員研究員。現代社会の諸問題に歴史学を援用し、解決策を提示する新進気鋭の研究者。著書に『日本史に学ぶリストラ回避術』『現代日本を操った黒幕たち』ほか多数

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