コミュニケーション不足の殻を破る
「キャプテンに就任してすぐ、コロナ禍になってしまって…。メンバーと会う機会がなくなったし、コンサートも全然できなくなっちゃいました。最初は何をすればいいのかわからない状態でした」
ただ、この空白期間が今村さんに味方した。
「メンバーのことを考える時間が増えましたね。この子はこれが上手そうとか、これが似合いそうだなとか、一人ひとりの可能性を広げることを探っていました」
そして、考えたアイデアなどをメンバーに直接言葉で伝えるようにした。これは今村さん自身にとって驚くような変化だった。なぜなら、従来は自分からメンバーに積極的に話しかけるタイプではなかったからだ。
「あまりコミュニケーションを取らないほうでした。緊張しいだし、人見知りとかもあって。それまでは同期以外のメンバーと話す機会がなかったんですけど、勇気を持って、2期生などとも話せるように頑張りました」
殻を破ったことは、今村さんのキャプテンとしての成長にもつながった。メンバーから頼りにされるようになったのだ。
「アドバイスをいただいたおかげで、こんなことができるようになりましたと喜んでくれるメンバーもいて。自分の言葉がその子の何かの役に立ったんだなと思うと嬉しくなりました。それからはできるだけ個々人のいいところを伝えるようにしています。他人から認めてもらうことで自己肯定感は高まるし、それはパフォーマンスするうえでも大切だから」
キャプテンになってから間もなく3年半になる。誰から言われるわけでもなく、自らの頭で考え、自分なりのリーダー像を模索してきた。そんな今村さんが最近嬉しかったことがある。6周年コンサートで瀧野さんが「キャプテンとして立派になった。頼りがいがある」と言ってくれたのだ。
一人ひとりがSTU48に存在する意味
メンバーを引っ張っていくキャプテンとして、今村さんはこれからのSTU48をどう舵取りしていくのだろうか。
「一人ひとりがちゃんと輝いて、楽しんでいけるような一体感のあるグループにしたい」と、今村さんは真剣な眼差しで語る。そのためには、クリアしなくてはいけない課題があることを肌で感じている。
「グループには選抜制度があって…。それは目指す場所でもあるし、グループらしさでもあると思うんですけど、選抜制度があったとしてもSTU48はSTU48。一人ひとりがこのグループに存在する価値というか、自分がいるからSTU48があるんだと思ってもらいたくて。STU48にいる理由が明確になったらというか、存在する意味がみんなにあったら、もっといいグループになるのかなと。言葉にしづらいんですけど。『どうせ私なんて…』と思う子がいなくなればいいなと思います」
慎重に言葉を選び、時には詰まらせながらも、誠実に話してくれた。そこにも今村さんの人柄のよさがにじみ出ていた。
もちろん、グループをよりよくするためには、自分自身も変わらなければならないと、今村さんは肝に銘じている。目指すべきリーダー像は、サンフレッチェ広島の青山敏弘選手だという。「サンフレッチェの元キャプテンなんですけど、チームのメンバーからも、サポーターの皆さんからも本当に慕われていて。ここぞというときに大事な声かけができる方。青山選手のように、私もみんなが前を向けるような言葉を発せられる人になりたいです」
常に笑顔である理由
インタビューで接した今村さんは、どちらかといえば、のんびり屋で、ふわふわとした印象だったが、なぜステージ上ではあんなにも機敏で、アクティブになれるのだろう。不躾な質問だと承知のうえで、今村さんにぶつけてみた。
どうやらステージを目の前にすると、パチッと集中力のスイッチが入るのだという。この集中力は小学2年生から中学2年生まで続けていた書道で養われた。書道九段段位を保持し、昨年秋には書道個展まで開いた腕前なのである。
「舞台などの仕事でもそうなんですけど、ステージに立つときと、降りるときでスイッチが一瞬で切り替わるみたいで。自分ではわからないんですけど、『やるぞ!』と集中力が一気に高まります。これは書道のおかげだと思っています」
そして、ステージでは常に笑顔。これに関しては日常生活でも変わらないそうで、人前では自然とニコニコしている。「よくヘラヘラしてると言われるんですけどね」と今村さんは恥ずかしそうにしながらも、笑顔であり続ける理由をこう明かした。
「近くに明るい人がいたほうが、自分自身も明るくなれることが多いので、だったら私も笑顔で明るくしているべきだなと。限られた人生のなかで、出会う人は限られているので、私と出会ってくださった方々にいい時間を過ごしてもらいたいし、私のことを思い出してもらうときに、『いい人だったな』と思ってもらったほうが嬉しいですから」
パフォーマンス力だけで目立った個性がない。かつてはこのことで頭を悩ませた今村さんだったが、今ではどうだろう。弾けるような明るい笑顔はSTU48のなかでも唯一無二の存在感を放っている。
いかなるときでも笑顔を絶やさずにファンを魅了する一方で、キャプテンとしてメンバーと真摯に向き合い、一人ひとりを輝かせようと心から取り組む。みんなに支えられないと倒れそうだった、あのか細かったキャプテンは、紛れもなくSTU48の未来になくてはならない大黒柱になった。