やついは今回の準備を進めるうちに、「オンラインフェスならではの魅力」にも気づいた。
「これまでの『やついフェス』では、さまざまな理由で参加が難しい人たちが、たくさんいたんです。妊婦さんや、まだお子さんが小さいお母さん、おじいちゃんおばあちゃんに、病気の人も。
そうした方々から、『オンラインなら参加できる!』という喜びの声をいただいて、『現実問題で、二の足を踏む人は多かったんだな』と気づいたんですよ。
家で見られるということは、小さいお子さんや、ペットと一緒に楽しみたい人も参加できる。体の移動がないから、いろんな制約がなくなったし、無料にしたことで、皆が平等に楽しめるフェスの形が見えてきました。
これって、『お祭り』っぽいですよね。町内の盆踊りなんて、町内会でお金を出し合って運営しているけど、集まってくる人から入場料とかは取らないじゃないですか。あの雰囲気に似ているな、と」
オンラインだからこそ、悩ましいこともある。
「一番難しいなと思うのは、『同じフェスに参加している感覚を共有してもらうこと』です。たとえば、リストバンドのデータを公式ホームページで公開していて、当日は印刷して、腕に付けてもらおうと準備したり。
今までの『やついフェス』でおこなっていたことでもありますが、渋谷や全国のライブハウスの近隣の飲食店に協力してもらって、そのリストバンドを見せるとサービスが受けられるようにしました。お店が近くにある人は、リストバンドを見せれば、少しお得に買えるようになっています。
さらに今回、新しく導入したのが、『ネットでお取り寄せして、フェス当日に配信を見ながら家で食べる』という方法。もちろん、『オンラインやついフェス』限定のお得なメニューや割引もあります!」
その企画と協力店は、「やついフェスフードコート」という名前で、公式ホームページに掲載されている。
やついには、フェス当日を心待ちにしている理由がある。
「じつは『ちゃんと実施できるのか?』っていうところが、一番楽しみなんです。『社会実験』的なおもしろさがありますよね。
うまくいけば、『どのプラットフォームを起動しても、やついフェス』という、5月までの『テレビのどこを回してもコロナ一色』っていうのと同じようなことが、オンラインで起きるわけですよ。何も知らなかった人は、『何なのこれ』って感じですよね。それって、なかなかすごいことだと思うんです。
実際そうなるのかなあ。まだわかんないですね。そこが一番わくわくしてる。当日すげえ失敗したら、それをネタに笑って飲もうかな(笑)」
運営を通して見出した「オンラインフェスの将来性」も、やついを高揚させる。
「2021年以降、世界がどんな状況になっているかは、誰にもわかりません。でもオンラインフェスは、今後もほぼ確実に開催できますし、お客さんも自宅から無理なく参加できる。
だから、今回のフェスが収益化されてノウハウができれば、オンラインの公演に、とても大きな可能性を示すことができる。今後は、リアルとオンラインの両立も狙っていきたいですね」
やついいちろう
1974年生まれ 三重県出身 お笑いコンビ「エレキコミック」での芸人活動をはじめ、「DJやついいちろう」としてCDをリリースし、俳優としてもNHK朝ドラ『ひよっこ』に出演するなど、マルチに活躍中。2012年より、渋谷で音楽&お笑いフェスティバル「YATSUI FESTIVAL!」を主催する
※「ONLINE YATSUI FESTIVAL! 2020」が6月20・21日に開催。出演者・タイムテーブルなどの詳細は、公式ホームページにて