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社会学者が解説 お笑い第7世代が “卒・松本人志” できた理由
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.10.05 16:00 最終更新日:2020.10.05 16:00
「お笑い第7世代を平たく言うと、“ダウンタウンの影響をあまり受けていない世代” です。ここ数十年、ダウンタウン、特に松本人志はカリスマで、多くの芸人はそこを目指してお笑いをしてきました。ピラミッドの頂点に松本人志がいて、芸人は彼との距離感から自分の立ち位置を測っていた。しかしその価値観にこだわらない世代が台頭してきたということです」
社会学者(テレビ論)でメディアと文化について研究する太田省一氏は、いまバラエティを席捲する「お笑い第7世代」をそう解説する。
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「第7世代という言葉を初めて口にしたといわれる、霜降り明星・せいやの発言は『自分たちの世代は自分たちでおもしろいと思っているものがあるから、前の世代に気を遣わずにやっていこう』というニュアンスでした。前の世代の価値観を否定しているわけではないんです。反・松本人志でなく、脱・松本人志、卒・松本人志といった感じでしょうか」
そもそもダウンタウン的なお笑いとはどういったものなのか。
「ダウンタウン以前の世代の漫才は、老若男女にわかるように『声を張って、ゆっくりと、わかりやすく話しなさい』というスタイルでした。漫才ブームのツービートや紳助・竜介が最初にそれを壊したのですが、極限まで突き詰めたのがダウンタウンです。彼らはお笑い至上主義ともいえる価値観を作り出しました。『ダウンタウンのごっつええ感じ』などで見せるコントはいままでにない実験的な部分もあり、私も含め当時の若者はその笑いに夢中になりました」
従来のお笑いを壊して、新たな基準を作り出したダウンタウンから30年、2人の影響を受けない第7世代が生まれた。
「まず、第7世代にはいい意味でこだわりがないんです。ダウンタウンがお笑いをストイックに極めたのと対照的ですよね。宮下草薙の草薙なんて『いつ辞めてもいい』なんて発言するくらいです。
さらに、一昔前は、お笑いコンビはプライベートで仲良くしないみたいな風潮がありました。第7世代は全体的に仲のよいコンビが多い印象を受けます。EXITなんか、恥ずかしげもなく相方をほめたりしますよね。これはもしかすると、デジタルネイティブな世代だからこそかもしれません。若いうちからSNSが身近だった彼らにとって、“いいね” と言い合うことが、コミュニケーションの基本にあるような気がします。相手をほめるという、古い世代にとってはこっぱずかしい行為のハードルが低いんでしょうね。そこに、ぺこぱの“ノリツッコまない”という新しい手法も出てきたのでしょう」
太田氏は、こう結論づける。
「ダウンタウンの作った世界は、ものすごくおもしろかったんです。だけどその世界のなかにいる限り、ダウンタウンを超えることはできませんから。そこだけじゃないんだよ、というのが第7世代です。 “ノリつっこまない” という言葉自体は松本人志が名付けたもので、いまもダウンタウンの影響力は絶大です。でも、もしかするといま、メインストリームが切り替わる最初の段階に、私たちは立ち会えているのかもしれません」
おおたしょういち 1960年生まれ 富山県出身 社会学者・文筆家。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得満期退学。テレビと戦後日本の関係が研究および著述のメインテーマ。それを踏まえ、現在はテレビ番組の歴史、お笑い、アイドル、ネット動画などメディアと文化に関わる諸事象について執筆活動を続けている。