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名曲散歩/鳥羽一郎『兄弟船』元の歌詞は北方領土がテーマだった
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.10.25 16:00 最終更新日:2020.10.25 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロは鳥羽一郎の『兄弟船』。海に生きる男の心意気がガンガン響くよねえ。
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マスター:鳥羽一郎は、漁師の父と、海女の母の間に産まれた根っからの海の男。10代のときから遠洋漁船の船員として、パナマやインド洋までマグロやカツオを追ったという。
お客さん:だからこそ、歌に説得力があるんだよね。
マスター:1982年にヒットしたこの曲、実はまったく違う歌詞だったって知ってる?
お客さん:なにそれ?
マスター:もともとは北海道の新聞社が歌詞を募集し、佳作となった作品。
お客さん:どんな歌詞だったの?
マスター:「遥か国後 船から見える 今日も兄貴と 網を引く 男の夢を かけてる海に 誰がつくった 国境線を」
お客さん:テーマが「北方領土」なんだね。
マスター:そう。政治色が濃すぎるということで、元の作者にことわって歌詞を変えることになったんだ。ただ、船村徹がすでに曲をつけていたため、星野哲郎がそこに歌詞をはめ込んでいった。
お客さん:名人芸!
マスター:実はもともと星野哲郎も “海の男” だった。船乗りを目指して東京海洋大学に入学。卒業後は遠洋漁業の乗組員となった。でも、腎臓結核を患い、船乗りとしての夢を絶たれたという過去を持っている。
お客さん:船乗りの経験があるから、海の男の気持ちがわかるんだね。
マスター:そうだね。鳥羽一郎はとくに3番のフレーズは船乗りじゃないと書けないと言っている。
お客さん:どんなんだっけ?
マスター:真冬の海へ行く兄弟船が「雪の簾を くぐってすすむ」。
お客さん:雪のすだれか……横殴りの雪、海の怖さを表現しているんだね。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:BSフジ『作詞家・星野哲郎の真実 言葉のチカラと魂の詩』(2019年2月16日)/BSテレ東『武田鉄矢の昭和は輝いていた』(2020年9月11日)