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お笑い第7世代ブームをもたらした2つの理由「個人視聴率」「時代の優しさ」

エンタメ・アイドル 投稿日:2021.04.24 16:00FLASH編集部

お笑い第7世代ブームをもたらした2つの理由「個人視聴率」「時代の優しさ」

写真はACです

 

 現在まで続いているお笑い第7世代の爆発的なブーム。第7世代として取り上げられる機会が多いのは、霜降り明星、ハナコ、ゆりやんレトリィバァ、ミキ、EXIT、かが屋、宮下草薙、納言、四千頭身、ガンバレルーヤ、3時のヒロインといった芸人たちである。

 

 第7世代ブームがこれほど盛り上がったのは、さまざまな要因が絡み合っている。その1つは、視聴率の指標が変わったことだ。テレビ視聴率調査を行っているビデオリサーチ社が、2020年3月30日から調査方法をリニューアルした。

 

 

 具体的には、それまで関東地区、関西地区、名古屋地区、北部九州地区だけに限られていた機械式個人視聴率調査が、その他の地域にも拡大されることになった。また、関東地区、関西地区の調査世帯数が増えて、より数字の精度が増した。

 

 この変化によって、テレビ局が世帯視聴率だけではなく個人視聴率も重視して番組作りをするようになった。個人視聴率は少し前から導入されていて、多くの局では重要な指標として扱われていたのだが、このリニューアルによってさらにその重要性が高まった。

 

 若い芸人が出る若い世代向けの番組は、これまでの視聴率調査の方式では単に数字が取れない番組だと思われていた。だが、今はそれが変わりつつある。

 

 たとえば、2020年4月には、特番として何度か放送されていた『有吉の壁』(日本テレビ)がゴールデンタイムでレギュラー化された。この番組では、大勢の芸人たちが有吉弘行を笑わせるためにロケを含むさまざまな企画に挑んでいく。

 

 このような純粋なお笑い番組をゴールデンタイムでやることは少し前なら無謀だと言われていたのだが、明らかに潮目が変わった。

 

 高齢者にそっぽを向かれて世帯視聴率が低くても、個人視聴率で若者に支持されていることがはっきりすれば、それもきちんと評価されるという時代になった。この風潮が第7世代ブームの追い風になっているのは間違いない。

 

■「優しさ」を求める時代の空気

 

 第7世代ブームが盛り上がったもう1つの要因は、時代の空気が変わってきたことだ。

 

 2019年に放送された『M-1グランプリ』を見ていて、印象に残った場面があった。6組目に登場した見取り図の2人が、お互いの見た目をけなし合うくだりに入ったときのことだ。盛山晋太郎がリリーに対してこう言った。

 

「お前さっきから黙って聞いてたら、女のスッピンみたいな顔しやがって。お前な、なでしこジャパンでボランチおらんかった?」

 

 この言葉が発せられた直後、一瞬だけ会場は水を打ったように静まり返った。

 

『M-1』の決勝では厳しい予選を勝ち抜いた実力派の漫才師がネタを披露するため、そもそもスベるということが少ない。多少スベったとしても、客席の笑い声がゼロになるということはめったにない。しかし、このときにはそのゼロがあった。

 

 盛山の発言は明らかに笑わせることを意図していたものだが、彼の思いとは裏腹に会場は一瞬だけ時が止まったように無反応になったのだ。これは単に「スベった」というよりも、観客全員がこの言葉を笑えるものとして受け止めることを拒否したと見るべきだろう。

 

 相方の見た目をイジるのに「女のスッピン」という表現に加えて、具体的な女性アスリートの存在を持ち出した。一昔前なら何の問題もなく通用する表現だったかもしれないが、今の感覚では「アウト」と判定されるのは無理もない。

 

 容姿をイジる笑いや、人を傷つける笑いは今の時代にはそぐわない、などと言われることが年々増えてきた。少なくとも、そういうものを「笑えない」と感じる人が増えていることは確かである。

 

 一方、同じ日の『M-1』では、ボケを否定しない優しいツッコミを武器にするぺこぱが3位に食い込む大健闘を見せた。

 

 元来、ツッコミとは常識を盾にしてボケを否定したり訂正したりするものなのだが、ぺこぱのツッコミ担当である松陰寺太勇はボケ担当のシュウペイの言動を否定せず、そこに理解を示した。

 

 ぺこぱの芸は「否定しないツッコミ」「人を傷つけない笑い」といった言葉で形容され、彼らはこれを機に売れっ子になった。

 

 見取り図とぺこぱの漫才から見えてくるのは、優しさをまとった笑いが多くの人に求められるようになっている、というお笑い界のトレンドだ。

 

 世間の意識が変わった結果、かつては見逃されてきたような差別ネタやセクハラ・パワハラ的な言動も非難の対象となっている。そのような世間の空気の変化に対しては、上の世代の芸人よりも第7世代の芸人のほうが適応力がある。

 

 若い世代はもともと古い価値観を持っていないので、新しい考え方が自然と身についている。一方、上の世代の芸人は古い価値観を引きずっているため、新しい考え方に意識的に合わせていくことはできても、根本的に考え方を変えるのは難しい。

 

 2019年には芸人の闇営業問題が世間を騒がせた。吉本興業を中心にした芸人たちが、事務所を通さない営業によって、反社会的勢力の人間から金銭を受け取っていたことが報じられたのだ。

 

 この問題が騒がれた背景にあるのは、「芸人は日常的に夜の街で怪しい人とつるんだり女遊びをしたりしているんだろう」というネガティブなイメージだ。

 

 ところが、根っから真面目な第7世代の芸人には、そういったマイナスの要素がなく、クリーンなイメージがある。だからこそ、起用する側としても安心して仕事を依頼できる。

 

 このように、時代の空気が変わっているからこそ、礼儀正しく真面目で、柔軟な考え方を持ち、多様性を受け入れる第7世代の芸人が人気を博しているのだ。

 

 

 以上、ラリー遠田氏の新刊『お笑い世代論~ドリフから霜降り明星まで~』(光文社新書)をもとに再構成しました。「世代論」で戦後お笑い史を読みときます。

 

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