わたしにとっては、初めての猪俣公章先生以外の楽曲で、そろそろ親離れしてもいいんじゃないかという、レコード会社の親心から生まれた作品でした。
自分で言うのもなんですが、すごく素敵な曲です。ただ……。後になってわかったことですが、わたしにとっては、タイミングが悪すぎました。
というのも、当時は猪俣先生が入退院を繰り返していた時期で、わたしも、レコード会社の人も、さらにそのまわりの人たちも、まさか、あんなに早く先生が亡くなるとは思ってもいなかったのです。
あれは、お見舞いに行ったときのことです。
レコーディングを終えたことは、先生も知っているはずなのに、それにはいっさいふれず、「伍代夏子に曲を書いたぞ!」と、病室に持ち込んだカセットデッキのスタートボタンを押し、「どうだ!? いい曲だろう?」と、胸を反らします。
タイトルは『恋ざんげ』。で、これがまた、本当にいい曲なんです。
でも……、きっとあのとき先生は、「それなのに、なんで、お前の曲は俺じゃないんだ」という言葉が、喉まで出かかっていたはずです。
それを思うと、悲しくて、切なくて。今でもこの歌を歌うと……胸が痛みます。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中
写真・中村功 構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年5月25日号)