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名曲散歩/ペドロ&カプリシャス『五番街のマリーへ』船上で作られた無国籍ソング」
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.05.23 16:00 最終更新日:2021.05.23 16:00
東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。
お客さん:お、このイントロはペドロ&カプリシャスの『五番街のマリーへ』。前作の『ジョニィへの伝言』と並ぶ “無国籍ソング” の決定版だ。
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マスター:1973年リリース、ペドロ&カプリシャスの5枚目のシングルで、作詞・作曲は『ジョニィへの伝言』と同じ、阿久悠&都倉俊一コンビだ。
お客さん:『ジョニィへの伝言』のアンサーソングが、『五番街のマリーへ』と言われることもあるけれど、どうなんだろう?
マスター:そこは阿久悠が「2つを組み合わせて考えたことはない」と明確に否定している。そもそも『ジョニィへの伝言』に登場する女は無名で、マリーとは名乗っていない。
お客さん:確かに。でもファンは、阿久悠ならではの仕掛けを感じてしまうよね。
マスター:ところで、実はこの曲、ちょっと変わったシチュエーションで作られたものなんだ。
お客さん:変わったシチュエーション?
マスター:そう、それは阿久悠が企画した700名の女性客だけを乗せた洋上大学「日本一周・ろまんの船」のなかで作られたんだ。
お客さん:夢のようなイベント!
マスター:横浜港から西回りする1週間の船旅で、講師として阿久悠、都倉俊一、三木たかし、中村泰士、井上大輔、森田公一らが乗船し、作詞教室や作曲教室をするというイベントだった。
お客さん:豪華極まりないラインナップ!
マスター:阿久悠は乗船前から、「ペドロ&カプリシャスの次作を船上で作ろう」と都倉俊一と相談していた。
お客さん:船の上で無国籍ソングを作るなんて、最高のシチュエーションじゃない!
マスター:そう、船上の非日常感と昂揚感が創作意欲をかき立て、あっという間に完成。そして、できたばかりの『五番街のマリーへ』を都倉俊一がサロンのグランドピアノで披露すると、集まってきた女性たちが口ずさみ、何度目かには大合唱になったという。
お客さん:生まれたての歌を大合唱、女性たちにも一生の思い出になっただろうな。
おっ、次の曲は……。
文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中
参考:阿久悠『夢を食った男たち』(毎日新聞社)/阿久悠『歌謡曲の時代 歌もよう人もよう』(新潮社)