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名曲散歩/久保田早紀『異邦人』中央線の風景がいつしかエキゾチックに

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.06.20 16:00 最終更新日:2021.06.20 16:00

名曲散歩/久保田早紀『異邦人』中央線の風景がいつしかエキゾチックに

 

 東京・神田の古いビルの2階。そこには夜な夜な紳士淑女が集まり、うんちくを披露しあう歌謡曲バーがあるという。
今宵も有線から、あの名曲が流れてきた。

 

お客さん:お、このイントロは久保田早紀の『異邦人』。エキゾチックなイントロからシルクロードの世界に引きずり込まれるよねえ!

 

 

マスター:1979年にリリース、サンヨーの大型テレビのCMソングに起用され、140万枚を超える爆発的なヒットとなった。

 

お客さん:哀愁を帯びたこの声がいいんだよねえ。

 

マスター:いかにもオリエンタルなこの『異邦人』なんだけど、もともとのタイトルは『白い朝』だったって知ってる?

 

お客さん:『白い朝』?

 

マスター:当時、久保田早紀は、八王子から中央線に乗って都心に通っていた短大生。冒頭の「子供たちが~」は、たまたま中央線の車窓から見えた朝の風景だ。国立か国分寺の子供たちの姿だったという。

 

お客さん:シルクロードじゃなくて、中央線だったのね。

 

マスター:久保田早紀はCBSソニー預かりの新人としてデビューの機会をうかがっていたんだけど、そのデビュー曲に三洋電機がタイアップについた。

 

お客さん:それで、この歌も、久保田早紀の運命もがらりと変わったんだね。

 

マスター:音楽プロデューサー酒井政利の判断で、タイトルは『異邦人』に変わり、さらに『シルクロードのテーマ』という副題がつけられた。

 

お客さん:当時はNHKのドキュメンタリー『シルクロード』が大ブームだったからね。

 

マスター:編曲の萩田光雄は、ダルシマーというペルシャ由来の民族楽器を使い、シルクロードのイメージを鮮やかに伝えた。さらには歌詞も変えて、みんなが知っているあの形になった。

 

お客さん:久保田早紀が望んだ形ではなかったかもしれないけど、僕らの心には響いたよね。

 

マスター:ちなみに久保田早紀の父親は電機メーカーの社員で、イランに出張しては現地のカセットをお土産に持ち帰ってきたため、あちらの音楽にはなじみがあったという。

 

お客さん:確かいまは教会の……。

 

マスター:そう、現在、久保田早紀は、久米小百合として教会の音楽伝道者として活動、いまもあの歌声をチャペルで響かせている。

 

お客さん:好きな歌にずーっと携われるのは幸せなことだね。

 

 おっ、次の曲は……。

 

文/安野智彦
『グッド!モーニング』(テレビ朝日系)などを担当する放送作家。神田で「80年代酒場 部室」を開業中

 

参考:TOKYO MX『ミュージック・モア』(2010年7月31日)/酒井政利『誰も書かなかった昭和スターの素顔』(宝島社)/萩田光雄『ヒット曲の料理人 編曲家・萩田光雄の時代』(リットーミュージック)/『昭和40年男vol.31』(クレタパブリッシング)

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