■役をどう演じるかを考え、悩みたい
これまで多くの役柄に挑戦してきた佐々木。舞台『マクベス』では佐々木が一人で登場人物20役を演じ、四代目市川猿之助主演の『スーパー歌舞伎II 空ヲ刻ム者-若き仏師の物語』では歌舞伎に挑戦。ドラマ『黄昏流星群』では初めてラブストーリーの主役に。
出演作へのこだわりを聞いた。
「可能な限りベクトルの違う役をやりたいと思っています。いい人、悪い人、ずるい人、情けない人。せっかく “役を演じる” ことができるのですから『この役をどう演ずるか』を考え、悩みたい。皆さんにいろいろな佐々木蔵之介を見ていただきたいですしね」
ジャンルにこだわらず、意欲的に挑戦してきた佐々木。演劇界での評価は周知だが、作品と向き合うときの気持ちを聞くと、返ってきたのは意外にも弱気な言葉だった。
「今でも『自分は役者に向いていないのではないか』と思います。マスコミの皆さんを通じて『ぜひ観に来てください』と言っておきながら舞台に立つことが怖いんです。稽古をすればするほど、舞台がどういう仕上がりになるかわからなくて怖くなってしまう。毎日、逃げたくなる気持ちを抑えるのに必死です。
だから、初日や公演日程が書かれたスケジュールを一日に何度も見てしまう。それを見ながら『どうやって今を乗り越えるか』、そればかりを考えています。積極的に役者をやっているというより『まだ終わらせられないから』という気持ちが強いです」
終演後はそのプレッシャーから解き放たれ、安堵感に包まれるのだろうか。
「それが違うんです。いつも『やり切った』という気持ちにはなれない。あれだけきつい稽古をしたのに作品に執着しないというか、千穐楽の翌日からは台詞すら忘れます。自分が出演した作品のDVDも観ません。『演劇ははかないものだ』とつくづく感じています」
1年半前、コロナ禍で予定していた舞台は中止を余儀なくされた。佐々木は「今、仕事をさせていただけることに心からの感謝しかない」と言う。そして自身が主宰する劇団「Team 申」が約11年ぶりの本公演『君子無朋(くんしにともなし)~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~』を上演する。
「この(自粛)期間を経たからこその舞台をお観せしたいです。舞台の筋書きは、中国史上最も孤独な暴君といわれた雍正帝が主人公。僕が演じます。
一国のトップですが、一日20時間かけて地方の末端の役人250人と直接手紙のやり取りをしました。しかも内容がパワハラそのもの。最後は過労死するのですが、フランス国王ルイ14世を気取ったコスプレをするなど変わった人物でした。ぜひ、観に来てください(笑)」
■舞台に立ちたい意識は強くなっている
インタビューも終盤、女性ファンがもっとも聞きたいことに迫ろう。芸能界きってのモテ男といわれるが実際は?
「そう言っていただけるのは嬉しいですけど、僕自身は『何をもってモテるというのかなあ』と思います。こういう仕事をしていますから、確かに女性に注目はされますが。学生時代も『キャーキャー』は皆無でした。公演チケットを手売りする劇団の男はモテません。軽音楽やテニスサークルのほうがモテます。その実感は今でもあります」と笑う。
どのような結婚観を持っているのだろうか。
「お酒が一緒に楽しめたらいいなと思いますけど、飲めなくても食事をしながらの会話が楽しくて、一緒に豊かな時間を過ごせる女性がいいですね。僕よりお酒が強い人はちょっと困るかも(笑)」
“博多の味” を存分に楽しんだ佐々木は最後にこう言った。
「年々、体力的に舞台に立つことがきつくなっていると感じます。だけど、逆に舞台に立ちたい意識は強くなっている。50代後半の役者人生は『がむしゃらだけど慎重に』、そんな気持ちで過ごしたいです」
演劇人。そんな言葉が似合う役者が佐々木だと思う濃密な時間だった。
ささきくらのすけ
1968年2月4日生まれ 京都府出身 神戸大学在学中から劇団「惑星ピスタチオ」で活躍。広告代理店勤務を経て、本格的に俳優活動をスタート。2000年、NHK連続テレビ小説『オードリー』で注目され、2005年から演劇ユニット「Team申(さる)」を主宰。第17回読売演劇大賞優秀男優賞(2010年)、第43回日本アカデミー賞優秀助演男優賞(2020年)など受賞多数
【博多どかどか団】
住所/東京都世田谷区駒沢2-12-14
営業時間/18:00~5:00
休日/不定休
※新型コロナウイルス感染拡大により、営業時間、定休日が記載と異なる場合があります。
写真・野澤亘伸、石川淳(稽古場)
ヘアメイク・西岡達也(ラインヴァント)
スタイリスト・渡辺 慎也(Koa Hole inc)
衣装協力・カットソー(WILLY CHAVARRIA)、ボトムス(DAN RIVER)
(週刊FLASH 2021年7月27日・8月3日号)