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【坂本冬美のモゴモゴモゴ】『能登はいらんかいね』紅白のおかっぱ姿は永久封印したい黒歴史
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.09.11 06:00 最終更新日:2021.09.11 06:00
たとえば、ゴルフに行ったとします。コースの右には池があります。「右に打っちゃいけない」。脳が体に囁きます。視界の端には、ずっとその池がチラついたまま。「右は絶対にダメだからね」。スイングと同時に警報ランプが点灯し、体中を駆けめぐります。
こうなると、もういけません。蛇に睨まれた蛙。猫の前の鼠。鷹の前の雀……。ボールは見事に右に弧を描き、池に向かって飛んでいきます。
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ゴルフに限らず、仕事でも恋愛でも、こういうことってありますよね? 苦手意識があって、失敗するぞ、失敗するぞ、と思っていると、本当に失敗しちゃうということが。わたしにとっては、デビュー4年めにリリースした『能登はいらんかいね』(1990年発売)が、断トツNo.1の苦手曲です。
もともと、猪俣(公章)先生の歌は、音程の上がり下がりが激しいのですが、この曲は特にその傾向が強くて。上がったと思うと急に下がり、またすぐに上がるという繰り返し。若いころ、低い声がうまく出せなかったわたしにとっては、難曲中の難曲でした。
なかでも、鬼門は2番にある “いさざ土産に” という箇所です。
1番をなんとか乗り切って、さあ2番。「来るぞ、来るぞ、いさざが来るぞぉ」。悪魔の囁きが、喉を締めつけます。そして――。
なんと表現していいものやら。出てきた声は、牛がもがき苦しむような声……とでもいいましょうか。本番前に、何度も何度も練習して、その挙句(あげく)にこれですから、もう腹が立つのを通り越して、笑っちゃいます。
あんなに練習したのに、あんな歌しか歌えないなんて……あなたは馬鹿なの!? ホント、自分で自分が嫌になります。
『NHK紅白歌合戦』で、この『能登はいらんかいね』を歌ったのは一度だけ。わたしのなかでは、永久に封印してしまいたい黒歴史です!
■目とのバランスを考えて眉を描いてください
あっ、でも封印したいのは、“いさざ” じゃありません。テレビに映ったわたしそのものを消去してしまいたい。というのも、あの時代は太眉が流行っていて。似合う人はいいんです、似合う人は。でも当時、一重だったわたしに太眉は似合わない…… 。
ファンの方から「目とのバランスを考えて眉を描いてください」と、お手紙をいただきましたが、ホント、おっしゃるとおりです(笑)。
でも、デビュー4年めのわたしが、『紅白』のために来てくださったヘアメイクの先生に言えるはずもありません。
さらに、さらに。用意していただいた衣装は、白いお着物と、これでもかというほどたくさんのお花……。この花を羽のように背負わされ、最後に取り出したのが……おかっぱのカツラでした。
え~~~~~~っ!? です。
太眉は、トイレでこっそり擦(こす)ればなんとかなります。お花を背負うのも我慢します。でも、おかっぱのカツラは……。恥ずかしくて、顔から火が出そうでした。
封印したはずのこの映像を先日、NHKの『うたコン』で流されたのですが……まぁ、酷いこと。30年も前のものですから、無理やり引き伸ばしたような粗い映像で、記憶よりさらに一段、酷さがアップしています。
収録後、マネージャーが「昔はもうちょっとかわいかったですよ」と言ってくれましたが、なんのフォローにもなっていません。よけいに悲しくなった心を引きずりながら、坂本冬美は、とぼとぼと家路につきましたとさ……おしまい。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。最新シングル『ブッダのように私は死んだ』を含む、35周年記念ベスト『坂本冬美35th』が発売中
写真・中村功
構成・工藤晋
(週刊FLASH 2021年9月21日号)