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新作『宇宙戦艦ヤマト』は40代以上を受け止める作品…福井晴敏が明かすアニメの可能性とは
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2021.10.08 11:00 最終更新日:2021.10.08 11:00
アニメーションによる表現に、小説以上の可能性を見いだしている福井は、自身も関わる『ガンダム』『ヤマト』の生みの親をこう語る。
「『ガンダム』を生んだ富野監督と『ヤマト』の西崎義展プロデューサーは作品も人物も対極の存在だと思います。富野監督は “興行成績の部分で『ヤマト』に最後までかなわなかったのはすごく悔しい” と語っていました。
お会いする機会はありませんでしたが、西崎さんは “ロボット(ガンダム)に全部持っていかれた” と……。お互いに強く意識していたようです。
富野監督は作品本位というか、いかに自分の声を届けていくかということを主眼にした人。一方、西崎さんはいかにこのフランチャイズを生き残らせていくかという大人のショービジネス志向の人。
真逆のはずなのに、2人の発言を聞くと、富野さんは興行成績、西崎さんは作品内容に関するものが多い。この相反は非常におもしろいです」
この2大シリーズを、福井はどのように継承し、新たな物語を紡いでいくのだろうか。
「両シリーズの制作に関して、自分が意識する大きな点は観る世代の違いです。ずっと継続してコンテンツとして確立してきた『ガンダム』は20代から40代に見せる作品。アニメ好きな若者も意識して、広い層に放つ。
一方、20年以上もシリーズが途絶えていた『ヤマト』は40代以上のシニア向け作品です。昔は大人向けでハードなエンタメ作品はたくさんありましたが、40代~60代はアニメや実写で、ニーズとして置き去りにされている世代だと思います。
その世代が生きてきた時間を、いま受け止められるような作品を意識して今作を作りました。倉本聰さんのドラマ『やすらぎの郷』(2017年 テレビ朝日系)のような作品に救われたシニア世代って確実にいると思うんです。アニメにも、そういう存在があってもいい」
『ヤマト』はシニア世代にとっての拠りどころのような作品なのかもしれない。
「『ヤマト』の劇中でも、悩み迷うのは皆大人たちです。今、世界でいろいろなことが起こり、自分が何を不安に思っているのか、何に怒っているのか、大人もみんなわからなくなっている。
そういった感情の滓(おり)が、自分の中に蓄積されているはず。“現実を忘れて楽しんでください” というアニメがあって、それでカタルシスを得るのもいい。
でも、たまった滓を言語化して取り出して、シニア世代で共有することができたら。だから、今後、自分の中でオリジナルで表現したい題材が出てきたとしても、小説という形ではなく、アニメーションでやっていくと思います」
【新生『宇宙戦艦ヤマト』年表】
○『宇宙戦艦ヤマト2199』
(2012年劇場上映、2013年TBS系にて放映)
第2次内惑星戦争に敗れた地球。その後、異星文明ガミラス帝国から地球への攻撃は激化し、地球は滅亡の危機に陥る。人類救済のため、宇宙戦艦ヤマトとそのクルーは、イスカンダルへの長い旅に出るのだった
○『宇宙戦艦ヤマト2202愛の戦士たち』
(2017年劇場上映、2018年~2019年テレビ東京系にて放映)
16万8000光年に及ぶイスカンダルへの大航海からヤマトが帰還して3年。かつての姿を取り戻した地球はガミラス帝国と和平条約を締結。復興のかたわら、軍拡への道を歩み始めていた。そんな折、女神テレサの祈りが、ヤマトを新たな航海に誘う……
○『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』
(10月8日上映)
帝星ガトランティスとの戦争後、古代進と森雪だけを救出するために、地球は超テクノロジー「時間断層」を失った。自責の念に駆られながらもヤマト新艦長の任についた古代は、有事に備えて新人クルーたちの訓練航海に旅立つのだった
ふくいはるとし
1968年11月15日生まれ 東京都出身 1998年に『Twelve Y. O.』でデビューし江戸川乱歩賞受賞。1999年『亡国のイージス』で日本推理作家協会賞、日本冒険小説協会大賞、大藪春彦賞受賞。同作を含め多数の著書が実写映画化。2007年より小説『機動戦士ガンダムUC』を執筆(全10巻)し、同作のアニメ制作に参加。『宇宙戦艦ヤマト 2202 愛の戦士たち』にシリーズ構成・脚本で参加
写真・西崎義展/宇宙戦艦ヤマト2205製作委員会
(週刊FLASH 2021年10月19日号)