三軒茶屋駅前の国道246号と世田谷通りに挟まれた三角地帯。レトロな雰囲気を残すアーケードの「エコー仲見世商店街」の一角に、駿河太郎の行きつけの店がある。
「ここに来るのは、だいたい、2軒めか3軒め。居心地がいいので、つい、来ちゃうんです」と笑う。ふだんはビールから始めるが、「CAFE 空とミルク」に立ち寄るときはほぼお酒が入っているので、トマトリキュールのソーダ割りかジャスミンハイが定番。
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また、ここで100%注文するのが「タコさんウインナー」。欠かせないおつまみなのだという。
「とにかく、形が理想的なんです。足がちゃんと8本あるんですよ。タコさんがお皿に並んだとき、きれいなんです。タコさんウインナーっていうと、昔ながらの赤ウインナーのイメージでしょ? 居酒屋でも出している店はあるんですけど、足は切ってあって4本。粗いところなんて、足がないまま、炒めただけのお店もあります。それは僕の中でちょっと違う(笑)」
こだわりは足の数だけではない。駿河の “タコさんウインナー愛” はまだまだ続く……。
「形だけじゃなくて、ちゃんと塩コショウで、味つけしてくれているんですよ。炒めたウインナーの横にマヨネーズがのっているだけなのは、僕は認めてなくて。濃いめに味つけをしてくれているところが “わかっとるな〜” と(笑)。完全に酒のツマミになるんです。とにかく美味しいから、撮影が終わったら、ぜひ食べてみてください」と言いながら、足が8本あるタコさんを、楊枝でパクリ。じつに満足そうである。
店に通うようになったのは、3年ほど前。店長の塩野和彦さんとは、カウンター越しに会話が弾む。
「20代のころは、完全にバイトをしながらミュージシャンをやっていました。27歳ぐらいのとき、難波(規精)さんというマネージャーが『俳優をやらないか』と声をかけてくれて……。ありがたいことに、そういう方は何人かいてたんですけど、断わってたんです。
でも難波さんだけは、根気強く2年ほど誘い続けてくれて。自分自身でも音楽に対する才能の頭打ちみたいなものも感じだしていたころで、この人なら信用できると思い、『音楽はすぐにはやめられないけど、よかったら一緒にやります』と返事をしました」
■朝ドラの大抜擢から国民的ドラマに出演
こうして駿河は30歳を機に、俳優に転向した。難波さんはよゐこ、オセロを育てたお笑い界の敏腕マネージャーとして有名だったが、俳優を育てたことはなかった。
そこから2人で一から歩みを進めてきた。大きな転機となったのが、2011年に放送された連続テレビ小説『カーネーション』(NHK)だ。
主人公を演じた尾野真千子の穏やかな夫役に大抜擢されたのだ。
「前年のNHKの大河ドラマ『龍馬伝』に、土佐勤王党の一人として出演させてもらったときに、めちゃくちゃお世話になった演出の方と大阪でご飯を食べたんです。そこで『昔から、友達のお母さんとおばあちゃんにはめちゃめちゃ好かれるから、たぶん、朝ドラはイケると思います』と売り込んだんです。
それがきっかけでオーディションを受けさせてもらって、出演が決まって。それまでは端役で台詞があってもほとんどひと言だったので、朝ドラに出演することがすごいことやっていうよりも、『やった! 台詞がいっぱいある』という感覚でした」
2013年には大ヒットドラマ『半沢直樹』(TBS系)に出演。半沢直樹とともに経営再建を目指す伊勢島ホテルの2代目社長を好演した。
「僕が撮影した時期はまだ視聴率が大騒ぎされる前だったので、気持ちは楽でした。出演できたことがすごくありがたくもあり、視聴率のすごさを痛感させられた作品でもありました」
今年公開された映画『ヤクザと家族 The Family』では憎たらしいヤクザを、ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)では爽やかな白バイ隊員を演じた。幅広い役をどう演じ分けているのか。
「あまり役を引きずらないタイプなので、台本に忠実に演じようと思ってるかな。逆に、印象が強い役を演じると、同じような役のオファーが続くので、そこは避けてるというか、あまりイメージがつかないようにはしてます。まったく真逆の役がくると『よっしゃ!』って思いますね」
11月10日から17日まで舞台『葉隠れ旅館物語』に出演する。舞台は2年に一度出演するようにしているライフワークだ。
「忍者の末裔を演じるんですが、台本がめちゃくちゃくだらなくて、おもしろい。でもなんか好きなんですよね。くだらないことを大真面目にやれたらなと、思っています。
文学的な作品も必要ですが、お客さんが幕が上がった最初の台詞でちょっとずっこけるような、そんな愛にあふれた舞台も大事だと思ってるんですよ。今から稽古が楽しみです」