■モチベーションのギャップが苦しくて
入学した音楽学校でも悪目立ちして同級生に叱られてしまった。同期ではいちばん年下だった。
「私服で着ていい色は白、紺、グレー。その日、私はグレーのスカートをはいていました。すると『ちょっと!』と呼び止められたんです。スカートがミニでした。ウォークマンを聴きながら寮の廊下を歩いて怒られたこともありました。宝塚に入ったのに宝塚のことがまったくわかっていない、あきれた子だったと思います」
だが、突然、新人公演で主役に抜擢された。
「その少し前、人間関係にも疲れて宝塚をやめようと思っていました。それとまわりの人はみんな宝塚に入りたくて必死にやってきたのに、私は『先生にすすめられたから』という理由。ずっとモチベーションのギャップを感じていました。
でも、『私が受かったことで泣いている人がいるのだから、(新人の)7年間は頑張ろう』と考え直してもいて。その矢先の主役だったので、与えられたことをこなすことに毎日必死でした」
2001年、月組トップスターに。長く舞台でファンを魅了すると誰もが思ったが、3年後に退団を決意。周囲は「早すぎる」と翻意を促した。
「もちろんさみしさはありました。でも中途半端ばかりだった私がひとつだけ “まっとうできた” のが、トップにもなれた宝塚。その嬉しさや充実感のほうがさみしさに勝りました」
■「強い女性」というイメージは誤解です
退団後はテレビ、映画で新境地を開いたが苦悩もあった。
「(宝塚の)舞台は3000人の観客に訴えるお芝居なので大振りになります。でも、その演技だとテレビでは私だけ目立ってしまう。それもありナチュラルな演技をしたら演出家さんに『ここではあえて宝塚的なお芝居を』と求められたりして。そのあたりの加減は今も難しいです」
バラエティ番組ではさらに戸惑った。
「最初は自分の欠点をさらけ出すことに抵抗がありました。オーバーに表現され『家事ができない』『スーパーに行けない』というイメージになってしまって(苦笑)。
結婚についても番組で “その気” を匂わせたら『結婚願望あり』になり、お金持ちのイメージが1億円だったので、正直にそれを言ったら『年収1億円が理想』になってしまいました」
結婚観はどうなのだろう。
「以前は50歳までの結婚を思い描いていましたが、今は結婚への思いが薄れているかもしれません。誠実な方と出会うご縁があれば、ですね。理想は私がのんびりしているので、グイグイ引っ張ってくれる男性が好きです」
タカラジェンヌの経歴が結婚に影響することはないのだろうか。
「それを聞きますか(苦笑)。かつて間に入ってくださった方が、お相手に『女優さんですが』と言ったらとても興味を示されたらしいのですが、『宝塚の方です』と言ったら少し引かれ、『紫吹淳さんです』と言ったらさらに引かれてしまい、その話は消えたそうです。
競争が激しいタカラジェンヌは『個のエネルギー』が強い女性が多いんです。だから、男性には『強い女性』と誤解されるのかもしれません」
そして紫吹は「私は死ぬまで、いえ、死んでからも『元タカラジェンヌ』といわれると思っています」と言った。
「現役のときは退団すればタカラジェンヌではなくなると思っていました。でも、どのお仕事をさせていただくときも『元宝塚の紫吹淳』なんです。その肩書でお仕事をいただいていることも間違いないので『これはもう、一生背負っていくぞ』と覚悟を決めています。だからこそ先輩や後輩に怒られないように品位を保って生きなくちゃ」
しぶきじゅん
1968年11月19日生まれ 群馬県出身 宝塚音楽学校を卒業後、花組に配属。数々の作品で主役に抜擢され、2001年、宝塚歌劇団月組トップスターに就任。2004年、3月宝塚歌劇団を退団し、女優デビュー。2019年に「第30回 日本ジュエリーベストドレッサー賞」を受賞。『I Love Musical』(12月24日~26日、第一生命ホール)に出演する
「Lyla restaurant」
住所/東京都港区赤坂7-5-34 インペリアル赤坂フォーラム1F 完全予約制
営業時間/ランチ12:00~13:00(14:30閉店)、ディナー18:30~20:00(22:30閉店)
定休日/日曜日
※新型コロナウイルスの感染拡大の状況により営業時間、定休日が記載と異なる場合があります
写真・野澤亘伸
(週刊FLASH 2021年11月2日号)