■「違う、違う!」スタジオ中に怒声が
ここまでは完璧です。どこを探しても、問題が起こる要素は微塵もありません……のはずだったのですが……。因果応報。塞翁失馬(さいおうしつば)。災いは突然にやってきます。
あれは……レコーディングをしていたときのことです。
「違う、違う、違う!」
突然、猪俣先生の怒声がスタジオ中に響き渡りました。
先生いわく、歌と歌の間に入ったセリフ、「ほんまに羨ましいわ……」のイントネーションがおかしいというのです。
――そうかな?
これまで秘密にしていましたが(というほど、大袈裟なものじゃないですけど)、高校時代の1年間、何を考えたのか、大阪のタレント養成所に通い、「拙者親方と申すは」から始まる『外郎売(ういろううり)』を覚え、研ナオコさんが出演していたCMのオーディションを受けたこともあるわたしです(もちろん、落ちましたけど)。
イントネーションがおかしい? まさか、そんなはずは、です。
いや、でも、しかし。やっぱりどこかおかしいかも? う~~~~ん、どんどん自信がなくなっていきます。
業を煮やした先生が、その場で大阪のおねーちゃんに電話。「あぁ、俺だ。猪俣だ。今からいうセリフを冬美に教えてやってくれ!」という言葉に半ば呆れ、苦笑しつつも、電話レッスンのスタートです。
でも……。何度やってもうまくいかないどころか、どんどんおかしくなっていって。ついにレコーディングは終了。おかしなイントネーションのまま、発売となってしまいました。
嘘だと思う方は、一度聴いてみてください。和歌山弁でもない、大阪弁でも京都弁でもない、おかしな関西弁になっていますから(苦笑)。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』など数多くのヒット曲を持ち、『また君に恋してる』は社会現象にもなった。「情念POPS」をセレクトして制作された最新コンセプトアルバム『Love Emotion』を10月27日にリリース
写真・中村功
構成・工藤晋
(週刊FLASH 11月9日・16日号)