エンタメ・アイドルエンタメ・アイドル

40年ぶりに“ファーストガンダム”劇場版…『ククルス・ドアンの島』安彦良和監督、高畑勲アニメを目指した「最後のガンダム」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.06.02 06:00 最終更新日:2022.06.02 06:00

40年ぶりに“ファーストガンダム”劇場版…『ククルス・ドアンの島』安彦良和監督、高畑勲アニメを目指した「最後のガンダム」

仕事部屋で取材に応じてくれた安彦監督

 

「これが、私にとって最後のガンダムです」

 

 キャラクターデザイン、アニメーションディレクターを務めてアムロ、シャアなどを生み出した安彦良和監督の『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』が6月3日から公開される。

 

 劇場版『機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』(1982年)以来40年ぶりに、ファンの間で“ファーストガンダム”と呼ばれる1979年から放送されたテレビシリーズを映画化したものだ。安彦監督が“最後”に選んだのは、テレビシリーズのなかでも異質の放送回といわれる第15話「ククルス・ドアンの島」だった。

 

 

「制作を発表したときに『この回を選ぶとは意外』『なぜ、この回?』と言われましたが、好意的な“なんで?”が多いそうなので映画化したことは間違いではなかったと思います。この回は、私の中ではずっと“引っかかっていた”ことでもありました。というのも制作した当時、多忙でスケジュールを助けてもらうために外注に丸投げしてしまったんです。

 

 結果としてストーリーは意味深でおもしろいんだけど、(作品自体は)これはひどいなという仕上がりでした。だから、自分がきちんと向き合って描いたらどうなるか、最後にやってみたくなったんです」

 

 ストーリーはこうだ。

 

 アムロたちが乗るホワイトベースに無人島、通称「帰らずの島」の残敵掃討任務が言い渡される。島で残置諜者の捜索任務に乗り出すが、そこにいるはずのない子供たちと一機のザクと遭遇する。アムロはザクと交戦するが敗れ、ガンダムを失い捕虜になってしまうーー。

 

 物語の中心となるのは、モビルスーツ同士の戦闘ではなく、アムロ、島で暮らす元ジオン兵のククルス・ドアン、20人の子供たち、戦争に翻弄される「小さき者たち」の人間ドラマだ。ガンダムで戦い続けることに葛藤するアムロが、ドアンや子供たちと暮らすことでどんな答えを出すのか、丁寧に描かれている。異質といわれる所以はここにある。

 

「テレビシリーズでは20分で描いたエピソード。それを映画では約100分に延ばしました。ただ、話の中身はそれだけのものがあると思っていたので心配はしていませんでした。オリジン(『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』)のときにブライト艦長の出番が少なくて、個人的に残念だったので増やしたり、ほかのホワイトベースのクルーも細かく描いたこともあり、実際に初稿のシナリオを起こしたときは2時間を超える内容になっていましたから。

 

 島ではククルス・ドアンが子供たちと暮らしていますが、テレビシリーズでは4人しか描けていなくてリアル感がありませんでした。映画では20人に増やして、アムロを絡ませました。アムロと子供たちの交流が不自然にならないように演出担当とはよく話し合いました。今作はリメイクですが、ゼロからオリジナルを作っている感じでしたね」

 

 安彦監督が翻案にあたりこだわったのはガンダムの世界にもある「日常」だという。かつて「私がつくるアニメと何が違うんだろう」と考え続けた高畑勲アニメの影響があるからだ。

 

「テレビアニメでここまで感情表現ができるのか、と衝撃を受けたのが、高畑さんの『母をたずねて三千里』です。作品の中で描かれているのはなんの変哲もない日常なのに、視聴者を自然に作品へと引き込ませる。しかも、普通に泣かせてくれます。これは難しいんです。

 

 高畑さんのそれをまねすることはできませんから、何かいただけないかなという感じではありますけど。今回、リメイクすることでアムロ、ドアン、子供たちの日常のドラマをある程度描けた気がします」

 

 安彦監督は本作を「ガンダムシリーズのなかでも世代を超えて理解できる作品です」と言う。

 

「最近のガンダムは内容が難しくなった、観念的になったといわれることがあります。『ククルス・ドアンの島』は、ガンダム第一世代のおじいさんとガンダムを初めて観るお孫さんが一緒に観ても楽しめるものになりました」

 

 安彦監督が思い残すことなく描いた「日常」。そこにガンダムの原点がある。

 

やすひこよしかず
1947年生まれ 北海道出身 『宇宙戦艦ヤマト』『勇者ライディーン』など多くのアニメ作品に携わる。キャラクターデザイン、アニメーションディレクターを務めた『機動戦士ガンダム』で注目を浴びた。漫画家としても『ナムジ』で日本漫画家協会賞優秀賞、『王道の狗』で文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』は、累計1千万部を超えるヒット作となっている

 

※『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』 6月3日(金)全国ロードショー 配給・松竹ODS事業室 (C)創通・サンライズ

 

( 週刊FLASH 2022年6月14日号 )

続きを見る

今、あなたにおすすめの記事

エンタメ・アイドル一覧をもっと見る