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【坂本冬美のモゴモゴ交友録】あのとき、清志郎さんがわたしの手を引いてくださらなかったら
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2022.08.06 06:00 最終更新日:2022.08.06 06:00
歌手の坂本冬美でございます。構想3年。満を持してスタートした先週の「坂本冬美のモゴモゴ交友録」第1回スペシャルバージョンに続き、今回は……。
正直、誰方(どなた)にしようかと悩みました。恩師・猪俣公章先生。第二の師匠・二葉百合子先生。大、大、大好きな桑田佳祐さんもいらっしゃいますし、皆さんがまだご存じない、「え~~~~っ、そんな人とも交友があったの?」と、驚かれるだろう方も1人、2人、3人……いらっしゃいます。
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でも、第2回はやっぱりこの方。演歌歌手としてデビューしたわたしに、新しい世界を見せてくださった “THE KING OF ROCK” 忌野清志郎さんです。
ーー演歌もいいけど、ROCKも楽しいよ!
あのとき、清志郎さんがわたしの手を引いてくださらなかったら『夜桜お七』も『また君に恋してる』も、桑田佳祐さんがわたしのために作ってくださった『ブッダのように私は死んだ』もない……。いや、それどころか、演歌歌手・坂本冬美は、とうの昔にいなくなっていたと思います。とってもシャイで物静かで、お話しされるときは、いつだって、ボソボソ……という感じで。そのひとつひとつが、今もわたしの中で煌めいています。
あれは清志郎さん、細野晴臣さんとのユニット・HISで、曲を作ろうということになったときのことだったと思います。清志郎さんの口から、いきなり「冬美ちゃんも詞を書いてみれば」という、思いもよらない言葉が飛び出して。一瞬、何を言われているのかわからず、頭の中には疑問符が飛び交っていました(笑)。
ーー丁重にお断わりする?
それができれば、そうしたかったですよ。詞なんて一度も書いたことがないんですから、モゴモゴモゴ……。でも、とても無理ですとは言えません。なんたって、スタッフみんなが「あの、清志郎さんだよ」「いい!? これはすごいことなんだからね」と口を揃える “THE KING OF ROCK” の清志郎さんです。もう、頑張るしかありません。
「なんでもいいんだよ。たとえば……初恋の思い出とかさぁ」という清志郎さんの言葉を頼りに初恋の相手、山本くんとの思い出を書いては消し、また書いては消しを繰り返して。ようやく出来上がったのが、作詞・忌野清志郎&中曽根章友、作曲・忌野清志郎&中曽根章友によるHISの1stシングル『夜空の誓い』です。
ーーえっ!? 坂本冬美の名前が、どこにもない?
う~~~~ん、そこを突っ込まれると、わたしも困るんですが。わたしが書いた言葉は、どこにも入っていません。入っていませんが……きっと、ですよ、たぶん、おそらく、わたしが書いた言葉をヒントにして作ってくださったんだと思っています(苦笑)。
もうひとつ、清志郎さんで思い出すのは、HISとしては最初で最後のステージになってしまった2006年、大阪で開催された「新ナニワ・サリバン・ショー」での出来事です。
岩手・花巻温泉でのショーを終えて、そのまま大阪に入ったわたしが、楽屋にご挨拶に伺ったときのことでした。
「どこから来たの?」
「花巻の温泉からです」
演歌歌手にとって、温泉でショーを演るのは、ごく当たり前のことです。ただ、清志郎さんにとっては、アンビリバボーのことだったようで。瞬間、目が倍の大きさになっていました。
「おんせんって、温泉?」
「はい」
「そこで歌うの?」
「……はい」
「冬美ちゃんが?」
「は……はい……」
「へぇ~~。そんなお仕事もあるんだ。おもしろいねぇ」
キラキラと輝く目は、まるで10代の少年の目そのもの。時間にして、わずか5分くらい。会話らしい会話をさせていただいたのは、このときが初めてで……そして、これが最後になってしまいました。
もしも、です。魔法のランプがあって、3つの願いをかなえてもらえるとしたら、ひとつは、もう一度、父に会いたい。2つめは、猪俣先生と歌のことをお話ししたい。そして3つめが、清志郎さんに感謝の気持ちを伝えたい。
なぜ、わたしだったのか?どこを気に入っていただけたのか? それをお聞きしてもう一度、細野さんと3人の時間を楽しめたら、もう最高です。
さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、ニューシングル『酔中花』発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋
ヘアメイク・岡崎じゅん
着付・斉藤祥江