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モデル出身俳優・新納慎也「一歩ずつ一歩ずつ匍匐前進のように進みながら役をつかんできた」

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.02.05 11:00FLASH編集部

モデル出身俳優・新納慎也「一歩ずつ一歩ずつ匍匐前進のように進みながら役をつかんできた」

新納慎也

 

「ことあるごとに使わせていただいているお店なので、本当は教えたくなかったんです」と新納慎也が紹介したのは、井の頭線神泉駅近くの「厨 七代目松五郎」。カジュアルダイニングのような雰囲気の店だが、メインはすき焼き。

 

「すき焼きのお肉が本当に美味しいんですよ。アラカルトも独創的で食べないともったいないぐらい美味しいので、すき焼きを泣く泣く人数分より少なくして、アラカルトも楽しんでいます」

 

 

 店に通いだして13年ほどになるが、最初に連れてきてくれたのはとても仲がよかった岡江久美子さんだった。

 

「僕と真矢ミキさんが親しくて、その真矢さんと岡江さんが仲よし。それでお会いしたら意気投合しちゃって。僕の舞台を観に来てくれた岡江さんが『美味しいお店を見つけたから行こう』と連れてきてくださったんです。岡江さんの娘さんの大和田美帆さんが芸能界デビューされたときの共演者の一人が僕で、また仲が深まりました」

 

 そんな新納のデビューのきっかけは、当時住んでいた神戸で、モデルとしてスカウトされたことだ。

 

「僕は中高と6年間、ハンドボール部だったんです。当時は神戸市の公立中学校は何部かにかかわらず男子は全員丸刈りという規則があって、丸刈りの伸びかけだった高校1年の5月ぐらいに『モデルになりませんか?』とスカウトされたんです。日焼けして真っ黒なうえにいがぐり坊主なのに。『バイト感覚でいいから』という誘い文句にのって始めましたけど、大変でした」

 

 多感なころで、恋もしたい、道端で踊りたい、バンド活動もしたい。そんな欲求が高まるなか、あるコレクションでモデルのトップバッターを務めた。

 

「この音楽でこのメイクでこの衣装ときたらこのポーズでしょ、と考えてポーズを決めたら、演出家に『新納、ストップ! 衣装にシワが寄るからまっすぐ立って』と言われて。僕は溢れ出る表現をしたいのに、服にシワが寄るからという理由で遮断されたときに、この職業ではないと実感しました」

 

 両親から「大学には進みなさい」と言われた彼が選んだのは、大阪芸術大学の演技演出コースだった。

 

「子供のころ鍵っ子で、親が帰ってくるまで映画館によく行っていたんです。芸能界というよりは映画の虚構の世界へ没入するのが好きだったんですよね。それで映画俳優の演技を勉強するつもりで大学に進学したんですが、入学してから学ぶのは演劇だと初めて気づきまして。でもまわりの友人たちと舞台を観に行く機会が増えたら、どんどん心を奪われていきました。モデルの仕事より、一人の人生を演じているほうが、血がたぎるぐらい楽しかったです」

 

 新納慎也と聞くと、ミュージカルを思い浮かべる人が多いだろう。じつは大学の演技演出コースの隣にあったのがミュージカルコース。その縁で、ミュージカルに出た。

 

「ミュージカル科の子たちと舞台を作っているうちに、ミュージカルという表現の方法もあるんだと。僕は演劇スタートではあるんですが、僕にとって表現することは演劇もミュージカルも同じだった。そういう環境で育ったので、あまり違いを感じず今もいられるんだと思います」

 

■役者人生を変えた三谷幸喜の都市伝説

 

 ストレートプレイ、ミュージカルと活動してきた彼の大きな転機となったのは、脚本家・三谷幸喜との出会いだった。当時、演劇界にはこんな都市伝説があったという。

 

「三谷さんは劇場で観て自分がいいと思った役者を使うという都市伝説があって、『今日は三谷幸喜が来てるらしいよ』と噂が広まると、みんな浮き足立つんです。でも誰の楽屋にも現われなくて肩を落とすという(笑)。

 

 ある日、ノックされて楽屋のドアを開けると三谷さんが立っていて『こんにちは、三谷幸喜です』と。でも、そのときはキョトンとしてしまって『こんにちは、なんでしょう?』と答えていました。『新納さん、僕と一緒に芝居をしませんか』という言葉を聞いて『ぜひお願いします!』とお答えしてから、心の中で『本当だった! 都市伝説!』と思いました」

 

 翌日、事務所にオファーが届き三谷氏脚本の舞台『恐れを知らぬ川上音二郎一座』(2007年)に出演する。この出会いがきっかけで、NHK大河ドラマ『真田丸』へとつながる。

 

「それまで映像を避けていたわけではないんですが、あまり魅力を感じずに生きてきました。でも、三谷さんと出会って大河ドラマに出させていただいたときに、映像の世界のお芝居の楽しさを感じられるようになりました。オンエアを見たときに、奇跡の瞬間をカメラで収めてくれている素晴らしさを知って。この演技を舞台で40回やれと言われてもできないなと。それからは可能性が広がりましたね」

 

 新納が『真田丸』で演じた豊臣秀次が自害すると、彼が次回から出演しないことに、「秀次ロス」なる現象が起きた。そのため昨年、三谷氏脚本の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で阿野全成を演じることが決まると、大きなプレッシャーを感じたという。

 

「前回の大河で秀次を演じたときに “ロス現象” が起きているので、今回、その現象が起きなかったら、下がったような感じがするじゃないですか。そういう意味ではドキドキしていましたね。実際、全成が秀次を超えたかはわからないです。それは視聴者の方が判断するものだと思っていますので。でもありがたいことに、思っていた以上の “ロス現象” は起きたのかな」

 

 順調に芸歴を重ねてきている印象だが、一歩ずつ進んできたという。

 

「僕はミュージカルのアンサンブル(シーンによってさまざまな人物を演じる役者)からスタートして、夢見る余裕もなく目の前に与えられた仕事を必死にこなしてきました。一歩ずつ匍匐前進のように進みながら役を掴んできた役者人生なんです。一歩ずつ進んでいるなかで『こっちへ進んでください』とたまに現われて、進むべき道を示してくれるのが三谷さんでした。僕に見たことのない新しい世界を見せてくれる方です」

 

 2023年、最初の大きな仕事はミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』。2月7日の東京・日生劇場を皮切りに上演される。

 

「驚くぐらい地味な作品なんですが、僕が2018年にニューヨークのブロードウエーでこの作品を観て、『本当にいい作品を観た』と余韻に浸りたくて、ハドソンリバー沿いを歩いて帰ったんです。日本で上演することになったら、絶対にこの役をやりたいと、出資していたホリプロさんに電話をしたぐらいです。今回はその役、トランペット奏者のカーレドを演じます。たった一夜の出来事なんですが、奥が深く戦争と平和について考えさせられる作品です」

 

 舞台、ミュージカル、映像と、境界線なく演じてきた。最後に役者・新納慎也が大事にしていることを聞いた。

 

「作品の世界観におけるリアリティ。それが匂うお芝居をしていきたい」

 

にいろしんや
1975年4月21日生まれ 兵庫県出身『ラ・カージュ・オ・フォール』(2018年)、『生きる』(2020年)、『日本の歴史』(2021年)、『ショウ・マスト・ゴー・オン』(2022年)などの舞台作品をはじめ、映画、ドラマなど幅広い作品に出演。NHK大河ドラマ『真田丸』(2016年)、『鎌倉殿の13人』(2022年)に出演し人気を博す。ミュージカル『バンズ・ヴィジット 迷子の警察音楽隊』が2月7日~東京・日生劇場、大阪・梅田芸術劇場、愛知・刈谷市総合文化センターで上演予定

 

【厨 七代目松五郎】
住所/東京都渋谷区円山町5-4
営業時間/17:00~23:00(L.O.22:00)
定休日/月曜

 

写真・木村哲夫
スタイリスト・津野真吾(impiger)
衣装協力・JUN OKAMOTO

( 週刊FLASH 2023年2月14日号 )

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