『あなたがしてくれなくても』田中みな実、もうイロモノとは言わせない…「沈黙の演技」で示した真価

 

　TBSの元女子アナが、ごくごく自然にフジテレビのプライム帯ドラマの主要キャストに名を連ねている――。

 

　夫婦間のセックスレスとダブル不倫を題材にした奈緒主演の『あなたがしてくれなくても』（フジテレビ系）で、田中みな実がいよいよ女優として覚醒した感がある。

 

　先週木曜に放送された第8話は、“元ぶりっこ女子アナ” なんて色眼鏡で見られることも少なくなってきた女優・田中みな実の、真価が発揮された回だったと思う。

 

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■第8話はいきなり修羅場からスタートだったが…

 

　主人公・吉野みち（奈緒）は、結婚して5年になる夫・陽一（永山瑛太）と基本的に仲はいいものの、2年間セックスレス。それが原因で夫婦間がギクシャクしてきていた。

 

　一方、みちの会社の上司・新名誠（岩田剛典）は愛妻家のイメージを持たれているが、実は彼も妻・楓（田中）とセックスレス。同志のように共感し合ったみちと新名は心の距離を縮めていき――というストーリー。

 

　第7話の終盤で楓がみちと誠の関係に気づき、みちが昼休憩で会社から出てきたところに楓が登場。「吉野さん。私とランチしません？　ご馳走します」と語りかけ、さらに近寄って顔を近づけ、「夫と浮気してますよね？」と無表情で問いかける。

 

　田中演じる楓が、観ているこっちも背中に嫌な汗がつつーっと垂れるような張り詰めた “圧” をかけ、第7話は終了。そんな戦慄のシーンで終わっていたため、第8話はいきなり修羅場からスタートした。

 

　カフェでテーブルを挟んで2人が座り、見つめ合いながら長い長い沈黙。地獄のような息苦しい静寂を破ったのは楓だったが、意外と落ち着いた態度で浮気について問いただしていく。

 

　謝罪するしかできないみちに苛立つ様子を見せたり、みちが夫とのセックスレスを誠に相談したことがきっかけだったと語り始めて、自身も身に覚えがあるため動揺してうろたえたり。田中は楓の繊細な心の機微を、抑えめの表情や所作で上手に表現していた。

 

　案外、淡々と2人の話は終わったので、そこまで苛烈な修羅場にはなっていない。しかし、だからこそ、ヘビー級に重苦しい空気がその場に充満しており、思わず逃げ出したくなるようないたたまれない気持ちにさせられたのだ。

 

■“低温演技” を求めたのは制作陣の信頼の証？

 

　楓とみちが対決するこのシーン。楓が大声で罵詈雑言を浴びせたり、取っ組み合いや髪の掴み合いになったりといった大立ち回りもありえるかと思ったが、“静と動” で言えば完全に “静” の修羅場。怒号が飛び交うような衝撃シーンではない “低温演技” が求められたのは、制作陣が田中の繊細な演技力を信頼していたからではないか。

 

　局アナ時代はぶりっ子キャラで知名度を上げ、TBSをやめてフリーアナウンサーという肩書になっていた田中に、たびたび舞い込んできたのが芝居の仕事だった。

 

　特に彼女の演技に注目が集まったのが、テレビ朝日とABEMAによる共同制作ドラマ『M 愛すべき人がいて』（2020年）。浜崎あゆみの過去を基にした小説の映像化作品で、愛する男にストーカー並みに執着する眼帯秘書を怪演。その恥も外聞もかなぐり捨てたような振り切った演技が賞賛を集めた。

 

　眼帯秘書役のインパクトが強烈すぎたため、『あなたがしてくれなくても』でもまたそういった “動” の演技で魅せてくれるのかと思いきや、いい意味で裏切られた気分。

 

『M 愛すべき人がいて』の後も、ヒット作となったTBSの『最愛』（2021年）にバイプレイヤーとして出演したり、テレビ東京の23時台のドラマ『吉祥寺ルーザーズ』（2022年）でヒロインを演じたりと、着実にキャリアを積んでいただけのことはある。

 

『あなたがしてくれなくても』で田中が求められたのは、アクの強い芝居なんかではなく、仕事に没頭するあまり、夫との営みをないがしろにするバリキャリの自然体な演技。

 

　この第8話で、元女子アナの話題性だけで起用されたわけでも、トリッキーなイロモノ演技を期待されて起用されたわけでもなく、ちゃんと芝居ができる一女優としてキャスティングされたのだと証明して見せたのである。

 

■TVerではキムタクや福山雅治の主演ドラマに勝利

 

　民放キー局のプライム帯・連続ドラマ。その主要キャスト4人のうちの1人に彼女が名を連ねても、大きく騒がれることはなかった。

 

　それは、フリーに転身したばかりのご祝儀仕事やブーストがかかっている状態ではなく、女優として適正に評価され、ごくごく普通にキャスティングされたということ。女優・田中みな実にとって、大きな大きな前進だろう。

 

――『あなたがしてくれなくても』の世帯平均視聴率（ビデオリサーチ調べ／関東地区）は、第1話から第8話まで5.8％、4.9％、5.0％、5.2％、5.2％、4.9％、5.3％、5.8％と低空飛行。

 

　だが本作は家族や恋人と一緒に観るのは気まずいタイプの物語のため、リアタイ視聴せず、一人きりの時間でこっそり観ているファンが多いだろう。

 

　実際、TVerのお気に入り登録数は137.4万人（6月5日現在）と好調。今期の話題作、木村拓哉主演の『風間公親―教場0―』（フジテレビ系）の128.0万人、福山雅治主演の『ラストマンー全盲の捜査官ー』（TBS系）の100.4万人を上回っているのだ。

 

　また、第1話から第3話までの放送後1週間における見逃し配信の累計が、短期間で1000万再生を突破したことも大きな注目を集めていた。

 

　今夜放送の第9話はもう物語終盤。視聴率は低調でも、みちと陽一、誠と楓の2組の夫婦の行く末が気になって仕方がないという見逃し配信派の勢いで、またTVerなどで好記録を打ち立てるのではないか。

( SmartFLASH )