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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』水前寺清子さんーー“ド新人”のリサイタルに大きな花束を抱えて現われて

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.06.24 06:00 最終更新日:2023.06.24 06:00

坂本冬美の『モゴモゴ交友録』水前寺清子さんーー“ド新人”のリサイタルに大きな花束を抱えて現われて

坂本冬美、水前寺清子

 

 皆さん “人生の応援歌” といったら、どんな歌が真っ先に頭に思い浮かびますか。

 

 えっ!? 坂本冬美の『風に立つ』ですか? またまたぁ、わたしを喜ばせても、なんにも出ませんよ(笑)。

 

 聴くだけで元気になり、心が躍り、明るく前向きになれる歌ーわたしが最初に大声で歌った人生の応援歌は、日本中を元気にしてくれた水前寺清子さんの『三百六十五歩のマーチ』でした。

 

 

 レコードが発売されたのは、わたしがまだ1歳のとき。物心がつくころには、懐メロになっていてもおかしくはないのですが、幼稚園でも、小学生のときも、中学生になっても、セーラー服に身を包んだ、花も恥じらう女子高生になったときも、まわりの大人を含め、いつも誰かがどこかで口ずさんでいました。

 

 トレードマークの着流しを粋に着こなして歌う姿が、とてもカッコよくて。身振り、手振りをマネしながら、わたしも大きな声で歌っていた記憶があります。

 

 でも、水前寺さんのすごさはそれだけではありません。女優としての才能も抜きん出ていて、水前寺さんが主役を務められたTBSドラマ『ありがとう』は、民放ドラマ史上最高の視聴率56.3%を記録。いまだ抜かれることなく、頂点に君臨しています。

 

 石井ふく子先生にお伺いしたところによると、当時の水前寺さんは忙しすぎて、ドラマ撮影もリハーサルなしの本番一発撮り。それなのに、一度もNGを出したことがなく、石井先生が「そりゃもう、すごかったわよ」とおっしゃるんですから、もう、唖然、呆然、ただただ、驚愕するばかりです。

 

 歌手としても役者としても、2段階も3段階も上を歩いていらっしゃったその水前寺さんと、初めて言葉を交わさせていただいたのはデビュー2年め、わたしにとっては初めてのリサイタル、新宿コマ劇場でのことでした。

 

 それまでにも、何度かテレビ局などでご挨拶をさせていただいていましたが、当時のわたしはド新人。一方の水前寺さんは、もうキラッキラに輝いていた大スターですから、「おはようございます!」「よろしくお願いします!」と、全力で頭を下げるだけです。

 

 その水前寺さんが、なぜかわたしのリサイタルに足を運んでくださって。しかも、です。ステージに立つわたしへのプレゼントを手に、ファンの方が長い列を作ってくださっていたそのいちばん後ろに、大きな花束を抱えた水前寺さんが並んでいらして。

 

 まさか……そんな……嘘でしょう!? そんなことって、本当に……あるの?

 

 もう、目が点どころの騒ぎじゃありません。

 

「水前寺さん……だよね?」「うん、水前寺さんだと思う」。そんな囁き声でざわざわするなか、水前寺さんは「頑張ってね」とにっこりと微笑むと、くるりと体を回転させ、悠然と通路を戻って行かれたのです。

 

 その後ろ姿のカッコいいこと。 “人生はワン、ツーパンチ” です。遠ざかっていく水前寺さんの背中に向かって、心の中で『一生ついていきます!』と叫んでいました。

 

 最近は、石井ふく子先生とのご縁で、お食事をご一緒させていただいたり、プライベートでもおつき合いさせていただくようになりましたが、きっぷのよさとカッコよさは当時のままです。

 

 わたしも見習わなきゃとは思っているのですが……そもそも持っている器が違いすぎて。わたしの器は水前寺さんに比べたら、半分にも満たないので、そこが目下の悩みの種です(苦笑)。

 

さかもとふゆみ
1967年3月30日生まれ 和歌山県出身 『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!

 

写真・中村 功
取材&文・工藤 晋

( 週刊FLASH 2023年7月4日号 )

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