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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』宇崎竜童さんーー「もっと、不良っぽい感じがほしいんだよね」のひと言に冷汗がたらり
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.07.15 06:00 最終更新日:2023.07.15 06:00
レコーディングスタジオには、メインブースとコントロールルームがあります。
演奏したり、歌を歌ったり、声優さんが声を入れたりする部屋がメインブースで、録音機材が揃い、モニターやオペレートをおこなうのがコントロールルーム。2つの部屋は、厚い防音壁で隔てられています。
当然ですが、歌入れをするとき、メインブースにいるのはわたし一人。コントロールルームには、作曲家の先生、エンジニア、ディレクター、事務所スタッフ……という方たちが、ずらりと顔を揃えていらっしゃいます。
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このシチュエーションって、けっこう怖いんですよぉ。
曲をいただいて、自分なりにこうだろうと理解、解釈して、何度も何度も家で練習して本番に臨みますが、それが本当に正解なのかどうかは、作曲家の先生の判断に委ねられる。もう、怖いなんてものじゃありません。
それでも、歌っているときはいいんです。一生懸命なので、ほかのことは気になりませんから。でも、歌い終わって、コントロールルームを見るのは、毎回恐ろしいほどの緊張を強いられます。
なかでもいちばん怖いのは、ご自身でも歌を歌われるアーティストの方に曲をいただいたときです。これは、マジで怖いです。
「あれ!? なんかイメージと違うぞ」「俺だったらこう歌うんだけどなぁ」……実際は、そんなことを言っていないのかもしれないんですけど、そう言われているような気がして。被害妄想が暴走して止まらなくなります(苦笑)。
デビュー10周年の記念曲として出させていただいた『螢の提灯』が、まさにそんな感じでした。詞を書いてくださったのは阿久悠先生で、曲を作ってくださったのは “一寸前なら憶えちゃいるが” の宇崎竜童さんです。
歌い終わって顔を上げると、その宇崎さんが、コントロールルームで腕を組み、難しい顔でじ~~~~っと、わたしを見つめています。
ーーもしかして……やっちゃった?
まともに宇崎さんのお顔が見られず、冷や汗がたらり。心臓は今にも破裂しそうです。
そこへ飛び込んできたのが、宇崎さんの「真面目すぎるんだよなぁ」というひと言でした。
へっ!? 真面目すぎる?
「そう。もっと、不良っぽい感じがほしいんだよね」
不良というとタバコを咥えて、バイクで暴走する感じですか!? 意味としてはわかります。わかりますけど、学生時代はソフトボールひと筋、体育会系のわたしに、その感じを出せと言われても……モゴモゴモゴ。
何度か録り直して、渋々OKをいただきましたが、宇崎さんのお顔には、 “しょうがねぇな” という文字が張りついていました(苦笑)。
この『螢の提灯』から6年後。再び、宇崎さんから曲をいただいたのが『日々是好日』という楽曲です。
あのときのレコーディングを思い出すと、今でも、顔が引き攣(つ)りそうになります。
だってーー宇崎さんの隣には、詞を書いてくださった奥様、阿木燿子さん……。
『横須賀ストーリー』から始まる、山口百恵さんを山口百恵さんたらしめた名曲の数々を世に送り出したご夫婦が、揃ってわたしの目の前にいらっしゃるんですよ。顔の筋肉はピリピリ。心臓はバクバク。もう、もう、もう、恐怖のズンドコです。
宇崎さん、その節は大変お世話になりました。ご苦労をおかけしましたが、宇崎さんからいただいた歌は、今のわたしにとっては、大切な、大切な宝物です。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋