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尾野真千子 夢はいまだに“女優”になること「演技が上手、下手でいったら、私は下手」

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.08.13 11:00 最終更新日:2023.08.13 11:27

尾野真千子 夢はいまだに“女優”になること「演技が上手、下手でいったら、私は下手」

尾野真千子

 

 尾野のどこに “可能性” を見出したのか。

 

 後に河瀨監督は尾野に「写真を撮ったとき、まっすぐレンズを見ていたから」と言ったという。

 

 この作品で河瀨監督が「第50回カンヌ国際映画祭」カメラドールを、尾野も「第10回シンガポール国際映画祭」主演女優賞などを受賞した。尾野にとっても衝撃的な体験だった。

 

「人見知りだったんです。それでも東京の人たちが一つの作品を作るために奈良の山奥まで来てくれて、一生懸命に作っている姿を見ているうちに『この人たちにまた会いたい。一緒に仕事をしたい』と思うようになったんです。それで河瀨監督に『女優を続けてみたいです』と相談しました」

 

 漠然と「将来は地元の奈良にいて、姉のように福祉の仕事に就くのかな」と考えていた人生は急展開した。

 

 高校進学後にドラマ『余命半年〜生前給付3000万円の夢』(1998年)『女性捜査班アイキャッチャー』(1999年、ともにNHK)、河瀨監督の映画『万華鏡』(1999年)に相次いで出演。

 

 高校卒業後の上京に備えて、村営旅館でアルバイトをして資金を貯めた。

 

「東京は、『萌の朱雀』の試写会で来たくらいでした」と言う尾野は文京区にアパートを借りた。近くに河瀨監督の事務所スタッフが住んでいて、何かあったらすぐに駆けつけてくれる距離だった。

 

「一人暮らしは『今日から親の言うことを聞かなくていいんだ!』って嬉しかったです。少しだけホームシックになりましたけど。

 

 上京してからはオーディションを受けまくりましたが、なかなか結果が出なくてへこみました。何が悪いのかわからず、『私はなぜオーディションを受けなくちゃいけないのだろう』という気持ちになり、オーディションが煩わしいものにさえなりました」

 

 悩み、迷いも生まれた。

 

「みんな、私の何をみてくれているのだろう」

 

「オーディションで私の何がわかるというのだろう」

 

「いきなり台本を渡され、どうやって気持ちを作ればいいんだ」

 

 それでも女優を続けるためにはオーディションしかない、と受け続けた。すると、しだいに役がもらえるようになり、ついには2010年におこなわれたNHK連続テレビ小説『カーネーション』(2011年)のオーディションで主役に選ばれた。

 

「書類選考、一次、二次、最終面接と進みましたが、『また落とされるのかな』という気持ちはずっとありました。

 

 合格の知らせは事務所から携帯電話にありました。

 

 そのとき、友人とスーパーで買い物をしていて、私は泣きながら電話を握りしめていたそうです。情報解禁前なので友人に電話の内容を話すことができなかったのですが、(友人は)オーディションを受けたことを知っていたので、察して喜んでくれました」

 

 放送を観た父親も「やっと芽が出たな」と喜んだ。しかし、尾野は「朝ドラに出演するのは怖かったです」と振り返る。

 

「(朝ドラ出演は)知名度をすごく上げていただけるし、仕事も増えるというお話を聞いていたので『そうなったら自分が自分でなくなるのではないか』とビビっていたんです。『私、どうなるんだろう』みたいな。

 

 朝ドラは、 “徹底的に生活が変わる保証” をいただける感じですよね。

 

 それで親に『出演してもいいのかな』と相談しました。そうしたら『あなたが頑張れるなら頑張りなさい』って」

 

■演技で嘘はつかない。一生懸命伝えるだけ

 

 ドラマ『Mother』(2010年、日本テレビ)の娘を虐待する母親から、『最高の離婚』(2013年、フジテレビ)での大雑把で陽気な妻まで、幅広い役を演じ、演技力が高く評価されている。どんな役も「はまり役」と思わせる、その “役作り” はどのようにしているのだろうか。

 

「よく言われる『役が憑依する』ということはありません。つらいことを抱えている人を演じるときは、その人の気持ちをごまかさないで、嘘をつくことなくしっかり伝えているだけです。観ている方も、こちらが一生懸命に伝えようとしていることがわかると共鳴してくださると信じて演じてきました」

 

『萌の朱雀』が公開されてから26年がたった。尾野は「演技が上手、下手でいったら私は下手です」と言う。

 

「だけど、私はこれ(女優)しかできないんですよね。

 

 だから『夢はなんですか』と聞かれると、『女優です』と答えるんです。まだ見ていない世界があるし、そこに行き着けていませんから。

 

『私、女優になれました』と言えるのは、死ぬときなのかもしれません」

 

 ふうっと一息ついてから、尾野は自分で握った「クレソンおにぎり」を美味しそうに頬張った。

 

おのまちこ
1981年11月4日生まれ 奈良県出身 1997年、映画『萌の朱雀』でデビュー。ドラマ『火の魚』(2009年、NHK)、『Mother』(2010年、日本テレビ)、『最高の離婚』(2013年、フジテレビ)など数多くの話題作に出演。連続テレビ小説『カーネーション』(2011年、NHK)で第37回エランドール賞 新人賞ほか、2021年には映画『茜色に焼かれる』でキネマ旬報ベスト・テン 主演女優賞をはじめ多数の主演女優賞を受賞

 

【昭和居酒屋 北山食堂】
住所/沖縄県国頭郡今帰仁村今泊3570 
営業時間/18:00〜23:00(L.O.食事22:00、飲み物22:30)
定休日/水曜

 

写真・野澤亘伸 
ヘアメイク・山内聖子(Söt)

( 週刊FLASH 2023年8月22日・29日合併号 )

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