もうひとつ大きな転機となったのが、2001年に出演した舞台『真情あふるる軽薄さ2001』を演出した蜷川幸雄さんとの出会いだ。
「蜷川さんはどんなに怒っていても愛情がある方。蜷川さんの舞台に主演として招かれて、それをやり遂げる度胸はあるのかと試されている。羞恥心を持っていたら芝居はできないぞ、と言われているのだと思いました。でもそのときに、今までにはない自分の中での解放感みたいなものがあって。
たとえば、髪の毛を切るにも許可を得ないといけなかった私に、『やりたいようにやればいいよ』と、『人間なんだからそのままでいいんだよ』と言われているようで。嘘をつかない大人と一緒にいられた気持ちになり、とても自由な感じを得ました。行き詰まっていた空気を抜いてくれた蜷川さんは今でも大好きです」
鶴田が「若いころ、何度もオーディションに落ちたんですよ」というNHK朝のテレビ小説。現在放送中の『らんまん』に出演し、夢をかなえた。主人公を演じる神木隆之介が印刷技術を学ぶために弟子入りする印刷所の妻、大畑イチを演じた。
「うまく演じられるか不安もありましたが楽しかったです。奥田(瑛二)さんとの掛け合いがおもしろくて、奥田さんとでなかったら、あんなふうに演じられなかったかもしれません。神木さんが幼かったころにドラマ(『グッドニュース』1999年、TBS)でお母さん役を演じているんです。そのころの神木さんの顔を思い出しちゃって、この仕事を長くしているとこんなこともあるんだと、感慨深かったですね」
最新出演映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』でも、母親役を演じる。
「今のお母さんは働いている人も多く、昔とは佇まいが違う。私の中のお母さんは、ちょっと昭和っぽい感じなので、そのあたりの演じ方を注意しています。『らんまん』に出演してから、歴史ものっておもしろいなと改めて思ったので、またやってみたいですね。女流作家の生涯とかを演じてみたいですが、残念ながらもう若い時代を演じるのは年齢的に無理かもしれないですね。(役の)人生の後半だけ演じるならできるかも?(笑)」
いたずらっぽく笑う鶴田は、デビュー36年めを迎えた今も、変わらないままだった。
つるたまゆ
1970年4月25日生まれ 神奈川県出身 1988年『あぶない少年II』(テレビ東京)で女優デビュー。1992年日本石油のCMで注目を集め、『きけ、わだつみの声』(1995年)で日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。その後、多くのドラマ、映画、舞台、ドキュメンタリー番組などで活躍。近年は映画『ノイズ』(2022年)、『らんまん』(2023年、NHK)など。最新出演映画『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』が9月1日より公開
【総本家 更科堀井 麻布十番本店】
住所/東京都港区元麻布3-11-4
営業時間/平日11:30~15:30(L.O.15:00)、17:00~20:30(L.O.20:00)土・日曜・祝日11:00~20:30(L.O.20:00)
定休日/年始・臨時休業あり
写真・野澤亘伸
スタイリスト・平井律子
ヘアメイク・谷川彩霞
衣装協力・PLUS OTO.HA