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『沈黙の艦隊』出演の前原滉 欠点を強みに変える俳優生活「こだわりや主張がないから溶け込める」

エンタメ・アイドル 投稿日:2023.10.01 11:00FLASH編集部

『沈黙の艦隊』出演の前原滉 欠点を強みに変える俳優生活「こだわりや主張がないから溶け込める」

前原 滉

 

「今日は楽しみで、ご飯を食べないで来たんですよ」

 

 そうにこやかに言って店のドアを開けたのは前原滉。映画、ドラマに相次いで出演している注目の若手俳優だ。ここ「下2食堂」には、俳優養成所に通っていた23、24歳のころから足を運んでいる。

 

「当時は一人で飲むことに憧れていて。僕は大勢でご飯を食べるのが得意なほうではないので、一人でご飯やお酒を楽しめるお店を探していたんです。ふらっと入ったら居心地が良くて。僕は宮城県出身なんですが、店長の(高橋)歩さんが山形県出身。同じ東北出身ということで肩肘張らずにすんだのかもしれません」

 

 

 通いだしたころはカフェバーだったが、コロナ禍を経て定食を出すスタイルに変わった。歩さんの目利きで豊洲市場から仕入れてくる魚はどれも絶品だ。

 

「定食だと肉じゃがとかトンカツを選ぶんですが、ここではいつも鮭定食。鮭が厚切りで美味しくて、味噌汁もお惣菜も付いていてボリュームがあります。ご飯は山形の『つや姫』というお米を使っているんですが、とにかく美味しいんです」

 

 前原は中学のサッカー部で主将を務め、チームメイトと「全国大会を狙おうぜ」と決めて、高校は地元の強豪校へ進んだ。

 

「サッカーを続けようと思っていたんですが、丸刈りにしなくちゃいけなくて。それがどうしても嫌で入部しなかったんです。アルバイトをしながら過ごしていたら、その友達は本当に全国大会に出場して。『ちゃんとやっておけばよかった』と後悔しました」

 

 高校3年生になる直前、進路に迷う前原を、舞台や映画を観るのが趣味だった母親が佐藤隆太主演の舞台『ビロクシー・ブルース』に連れて行ってくれた。

 

「すごい楽しそうな仕事だなって。すぐに母に『この仕事がやりたい』と言いました。とりあえず東京に出て、と思っていたのですが、母は(前原が)どこにいるかわからないのは嫌だったみたいで。それで母が探してくれたのが今の事務所の養成所でした」

 

 卒業を控えた2011年3月、東日本大震災が起きた。被災した前原は俳優になることをあきらめかけた。その背中を押してくれたのは母だった。そして週に一度、アルバイトをしながら深夜バスで東京の養成所へ通うことになった。

 

「1年めは僕の熱量が足らなくて。箸にも棒にもかからない存在だったんです。そんな毎日を変えたいと思って、ヒッチハイクに出ました。2週間休みを取って『西へ』と書いた紙を持って鹿児島を目指しました。あっさり2日……車2台で着いちゃって、あまり苦労はしなかったんですが。でも、車に乗せてくれた人が『じつは友達にも同僚にも話してないんだけど……』と悩みごとを話してくれるんです。それを聞いているうちに、自分の悩んでいることなんて、ちっぽけだなって思って。『ちゃんとしなきゃ』と考えすぎて窮屈になっていたんですよね。そこからはお芝居や演技も変わったし、自分の考え方が緩やかになりました」

 

 そんななか、事務所の所属になるためのオーディションがおこなわれた。合格できなかったら事務所を辞める覚悟で、練習場を予約して演技の練習に励んだ。結果は合格。事務所の所属となることができた。

 

「ヒッチハイクでいろいろ考えるようになってから、人の目を意識して、どう評価してもらうかを考えるようになりました。今でも養成所でやってきたことが生きてるなと思う瞬間はあります」

 

 映画『S−最後の警官−奪還 RECOVERY OF OUR FUTURE』(2015年)のテロリストのエキストラを決めるオーディションで、その努力は実った。

 

「役がゴリゴリした武闘派ではないので、科学的なイメージかと思って白衣を持参したんです。それを平野(俊一)監督が『おもしろいね』と選んでくださったと思うんです」

 

 その後は数々の役を掴んでいく。連続テレビ小説『まんぷく』(2018年、NHK)では長谷川博己演じる発明家の萬平を助ける若者集団「塩軍団」の小松原を演じ、『あなたの番です』(2019年、日本テレビ)では、馴れ馴れしい管理人、『直ちゃんは小学三年生』(2021年、テレビ東京)では、貧乏でガサツな小学三年生を演じた。まったく違う役なのに、しっくり馴染んでしまう。

 

「僕自身のこだわりや主張がないからだと思います。だから、どんな撮影現場でも馴染むんだと思います。お芝居に対して自分ではこうだろうなって思っていてもあまり固執はしてないです。もちろん自分の矜持みたいなものを強く主張したり、持つことは素敵だな、とは思います。でも、出演者全員がそれではおもしろくないし、どっちもいるからこそ、お互いが目立つと思うんです。お芝居はそういう世界であってほしいと思うし、そのほうが絶対に楽しくて豊かな作品になると思います」

 

 放送中の連続テレビ小説『らんまん』では神木隆之介演じる槙野万太郎の植物学教室の学友・波多野泰久を演じた。

 

「16週も出演する予定ではなかったんですが、視聴者の皆さんの声のおかげで出番が増えた気がします。ありがたかったですね」

 

 9月29日公開の映画『沈黙の艦隊』では、原作マンガで人気のキャラクター、原子力潜水艦「シーバット」のソナーマン・溝口拓男を演じる。

 

「(原作と)見てくれが僕とぜんぜん違うんです。大事なものは守りつつ、実写版ではまた違う魅力がある作品にする、ということで(トレードマークの)眼鏡をかけたまま演じました。ソナーマンは海中の音源を探知するのが任務なので、撮影はずっと音やモニターに集中していて、あまり人とやり取りする場面がなくて、できあがった作品を見て初めて、 “外” の世界がわかりました。この作品を観た事務所の人たちが、初めて『前原、カッコよかった』って言ってくれたんです(笑)。それはよかったなって思います」

 

 高校でサッカーをやめたときに思ったことがある。

 

「人生でずっと続けてきたことがないなって。だからこの仕事を選んだのは、自分が最後までできる仕事を探したかったという気持ちもあったんです。自分がもうできなくなるまで続けたいと思います。これからやってみたいのはラブストーリー。好きな人に『好き』と言える普通のラブストーリーがやってみたいです。30歳でこんなこと言うと痛いやつみたいですけどね」

 

 そう笑うと、つやつやに光る白米を美味しそうに食べた。

 

まえはらこう
1992年11月20日生まれ 宮城県出身 高校卒業後、現在の所属事務所の養成所に入所し、2015年にデビュー。映画『あゝ、荒野』(2017年)、連続テレビ小説『まんぷく』(2018年、NHK)、ドラマ『あなたの番です』(2019年、日本テレビ)、『ユニコーンに乗って』(2022年、TBS系)などの話題作に出演。映画『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(2021年)では主演を務めた。連続テレビ小説『らんまん』(NHK)、9月29日公開の映画『沈黙の艦隊』に出演している

 

【下2食堂】
住所/東京都世田谷区下馬2-19-6 2階
営業時間/11:30~14:00、18:00~24:00
定休日/不定休

 

写真・野澤亘伸
スタイリスト・橋爪里佳
ヘアメイク・ゆきや(SUNVALLEY)
衣装協力・THE JEAN PIERRE、rehacer、Pantofola d’Oro

( 週刊FLASH 2023年10月10日号 )

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