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「アイドル」は本当に嘘つきなのか…1000人以上取材した記者が語るアイドルの “本音” と “嘘”

エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.11.03 20:00 最終更新日:2023.11.03 20:00

「アイドル」は本当に嘘つきなのか…1000人以上取材した記者が語るアイドルの “本音” と “嘘”

「アイドル」が主題歌のアニメ『推しの子』は大ブームに(集英社・【推しの子】製作委員会公式サイトより)

 

 YOASOBIの『アイドル』が大ヒットしている。アイドルという、簡単には説明がつかない存在を見事に描いた歌詞への評価も高い。アイドルは「嘘」をつくことがデフォルト――。この曲が浸透しているということは、そういう認識が一般的と考えてもいい。

 

 はたしてアイドルは「嘘つき」なのか? これまでおよそ1000人のアイドルを取材してきた筆者が感じているのは、あながち「嘘つき」ではない、ということだ。

 

 いくら10代だとしても、アイドルとて馬鹿ではない。そのほとんどが、言っていいことと悪いことの分別くらいついている。インタビューをする場合、その「言っていいこと」から言葉を選んでアイドルは答えている。たまに「言ってはいけないこと」や「言わないほうがいいこと」をぽろっとこぼすアイドルもいるにはいるが、かなり少数派である。

 

 

 筆者は21世紀に突入した頃から取材活動をしてきた。2000年代は若手女優やグラビアアイドルが主な取材対象で、2010年代に入る数年前から、グループアイドルがメインになった。時代の移り変わりがそのまま反映されている。

 

 売れている人は取材においてもプロだ。隙がない。聞き手の意図をくみ取り、瞬時に「正解」ともいうべき答えを導き出す(15年ほど前に取材した釈由美子の完璧さには感動すら覚えた)。

 

 ドラマや映画の宣伝で取材する場合は、本音を聞き出すことが主眼ではないので、こちらも相手に話を合わせるが、そうでない場合は攻める。建前ばかりでは面白くない。そこで核心を突いてみる。そして反応を見る。本音をほんの一部でも語りはじめたら、こちらのものだ。

 

 筆者は、AKB48グループを長年担当してきた。長く関わっていると、メンバーと顔見知りになってくる。自然と相手も胸襟を開いてくる。元SKE48の松井珠理奈には100回以上取材してきたが、「私よりも私に詳しい人」(本人談)として筆者を認識してくれていた。

 

 そうなると、取材でも本音を語りやすい状況になる。多くのメンバーは「現時点で語ってもいい本音」を話してくれるようになる。それを原稿にするかどうかはこちら次第。事務所によるチェックもあるので、世に流通する文字群は現場で聞いた言葉よりも刺激は少なくなりはする。

 

 しかし、「この子、明らかに嘘をついているな」と感じたことはまずない。嘘をつくのではなく、アイドルは「これは書けないんですけど……」と前置きしたうえで、本音かそれに近い言葉を吐いてくれる。何人かのメンバーは、「私、〇月に卒業するんですよ」なんてことまで話してくれた。発表前の情報なので心にしまっておくだけだが、本音を話してくれることは嬉しいものだ。

 

 AKB48のある選抜メンバーに取材するときは、書けるか書けないかは置いておいて、まず「本音」を話してから本題に入るのが恒例になっている。本心を隠しておけないタイプの彼女は、そうしないとエンジンがかからないからだ。書くか書かないかはこちらに委ねてくれている。そこに「嘘」があると感じたことはない。

 

 世間が考えるアイドルの「嘘」とは、「本当はファンのことなんか好きじゃない」とか「握手会を面倒だと思っている」とか、そういうものだろう。バラエティ番組に出演したアイドルは、そういったイジられ方をされがちだ。

 

 たしかに、そういった声をアイドルから聞いたことはある。だが、そういった「本音」を漏らしてしまうのは、プロとしてあまりに未熟である。もしそれが「本音」だったとしても、ファンの熱心な応援を目の当たりにしているうちに心変わりするものだし、大多数のアイドルがファンへの感謝を口にして卒業していく。それがすべて「嘘」だとは到底思えないのだ。

 

 そう考えると、つくづくYOASOBIの『アイドル』はよくできた曲だと思う。アイドルは「嘘」をついていたとしても、それがいつか本心になる――と書かれているからだ。江戸時代から言われていることだが、「虚」と「実」のはざまを楽しむことが、芸能(特にアイドル)の楽しみ方のひとつなのではないだろうか。

 

 ――ここまで書いて思い出した。一度だけ「嘘」をつかれたことがある。ある人気グループの初期メンバーと、次の撮影はどんな衣装にしたいか、どんなロケーションで撮りたいかなどと雑談を交わしていた。そのメンバーは「そうですねぇ。次は……」と目を輝かせながら展望を語ってくれていたのだが、その翌日、彼女は卒業を発表した。

 

 爛々としていたあの目は何だったのか……。アイドルを100パーセント信じてはいけない。そう思いこもうとしたが、今まで取材してきたアイドルたちの真摯な態度を思い返すと、信じてはいけないという結論に達することもできないまま、今日もまた取材に出かけるのであった。

 

取材・文/犬飼華

( SmartFLASH )

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