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宇野祥平、朝ドラでも話題、出演作170本以上の “映画俳優” 「答えがないものをみんなで探すそんな楽しさがあります」
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.11.05 11:00 最終更新日:2023.11.05 11:00
「『ひろし』のご主人は、20年以上前からの知人。23歳のころにバイトしていた喫茶店のオーナーの息子さんの後輩なんです」
こう控えめな口調で話すのは、俳優・宇野祥平。
朴訥(ぼくとつ)とした姿は、放送中の朝ドラ『ブギウギ』で演じる「ヒロインを見守るゴンベエ」のよう。失礼ながら、朝ドラに加えて映画『市子』(12月8日公開)など、今年11本もの出演映画が公開される売れっ子とは思えない地味な佇まいだ。
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宇野は2000年に映画『絵里に首ったけ』でデビューして以来、170本以上の映画に出演している。
「すべてご縁が繋がり呼んでいただけたんです」
どのようにして「縁」を繋いできたのだろうか。大阪で少年時代を過ごした宇野は「祖父の影響で映画好きになった」と言う。
「祖父に、よく映画館に連れて行かれたんです。自分の意思で選んだ映画ではなかったのですが、映画を観ると、ふだんは秘められた大人の姿や表情を見ているような印象がありました」
映画に魅せられた宇野少年は、役者に憧れた。
「祖父母に育てられ、『高校を出たらすぐ一人前にならなければ』と思っていました。『役者になりたい』などと言えるような環境ではなかった」
高校を卒業し、生花店に就職。そこは「大阪一忙しい」と言われる店だった。
「僕はオーナーを金儲けしか考えていない人だと思っていました。それがある日、配達の途中でオーナーが野に咲く花に駆け寄り、『祥ちゃん、見てみ。この花、ほんまきれいやで』と言ったんです。この人は、純粋に好きなことを仕事にしているのだと、衝撃を受けました。それを自分に置き換えたとき、やはり映画に関わる仕事、役者をしたいと強く思ったんです」
宇野は生花店をやめ、「カメラマンになりたい」と祖母に嘘をついて映画専門学校に入った。あるとき、アルバイトで競艇場の大型ビジョンで流す映像を制作していた宇野は、同僚から自主映画の制作に誘われた。
「役者が降りたから出ない?」。このひと言で、役者人生が動き始めた。
「このデビュー作で脚本家の佐藤佐吉さんや俳優の森下能幸さんと知り合いました。今思うと、このときの縁がのちのちの仕事に繋がりました」
23歳で上京。映画関係者が利用するアオイスタジオ内の喫茶店でアルバイトをした。
宇野はここで大切なことを学ぶ。教えてくれたのは、オーナーの “おばちゃん” だった。
「僕は調理補助で千切りキャベツの盛りつけをしていたときに、それをおばちゃんに『決めつけて盛るな。答えなんてないんだよ』ってよく言われたんです。『それがわからないなら、役者なんてなれない』とも。キャベツは産地や収穫時季で味も見た目も違う。切り方や、食べる側の体調、気分でも変わる。『常に答えを決めつけず、そのときのベストを尽くせ』と怒られていました。答えのないものに、勝手に答えを決めつけることを許さない方でした。どんな仕事にも言えるやり方というか、気持ちの持ちようを見せてもらっていたと思います」
真摯に役と向き合う宇野は、多くの作り手に愛されている。映画化もされた戌井昭人の小説『俳優・亀岡拓次』では、主人公のモデルの一人になった。
作中の亀岡は、呼ばれればどんな現場にも赴き、どんな端役でも必死に演じる。
「単行本の表紙イラストのモデルは確かに僕です。劇中の亀岡に関しては戌井さんに聞いてください。ただ、戌井さんは『映画化されたとき宇野くん主演は難しいかもしれないから』と亀岡の役者仲間の役を作ってくれました。尊敬する殿山泰司さんの泰という字が入っていて、光栄に思いました」
それが「宇野泰平」という亀岡の役者仲間の役だ。宇野は映画で宇野泰平を演じた。似たエピソードに、宇野の当たり役「江野祥平」がある。宇野は2009年に初主演したホラー映画『オカルト』(白石晃士監督)を皮切りに、複数の白石監督作品で、ネットカフェ難民、殺人鬼、スーパーボランティアなどさまざまな設定で江野祥平を演じている。
「あれは白石監督が僕に出演を断わられないために名前を寄せただけで、自分のなかでは別人です。
白石さんとの縁も不思議で、僕が主演した前田弘二監督の『鵜野(うの)』(2007年)という短編映画を観てオファーしてくださったんです(笑)」
キャリアは20年を超えるが、いまだに現場では緊張する。170本を超える作品でさまざまな役を演じたが、役作りに関しては慣れることなく「わからない」と悩む。
「今日の取材でも緊張していますし、毎回、どんな役も、難しい。『わからない』という所から始めるしかありませんし、わからないからこそおもしろいのだと思います」
だから、「自分を発見する楽しみがある」と言う。
「役作りをしていく過程で『自分には、こういったイメージがあるのか……』と発見することが何より嬉しい。
全然自分とは違うはずなのに、なぜか自分自身が忘れていた気持ちや感情に、出会うことがあるんです」
ただ、役作りは「一人でできるものではない」と言う。
「まずは脚本があり、各パートのスタッフのみなさん、共演者のみなさん、現場にかかわるさまざまな部署のみなさんから役のヒントをいただき、監督に演出してもらっています。答えのないものをみんなで探していくような、楽しさがあります」
宇野は映画『罪の声』(2020年)で日本アカデミー賞優秀助演男優賞をはじめ、さまざまな映画賞を受賞した。
「この作品の生島聡一郎役のオファーをいただいたとき、
『土井裕泰監督は僕よりも、僕のことを知っている』とドキッとしました。
僕は映画化が決まる前に、どこか劇中の聡一郎と自分を重ねて、たまたま原作を読んでいたんです。僕は母を早くに亡くしまして、母に対しての後悔や失望のようなものが聡一郎への共感になったのだと思います。
土井監督とはまったく面識がなかったので、驚きました」
数ある出演作品のなかで代表作を聞くと、ビールをぐびりと飲み、照れながら答えた。
「全部です。理想は観ていただいた方々からそれぞれ違う作品を挙げていただけるように、これからもひとつひとつ丁寧に作品に臨んでいきたいです」
うのしょうへい
1978年2月11日生まれ 大阪府出身 2000年に俳優デビュー。2020年、映画『罪の声』で、日本アカデミー賞優秀助演男優賞ほか多数の賞を受賞。連続テレビ小説『ブギウギ』(毎週月~金曜8:00~8:15NHK総合ほか)に出演中。映画『こいびとのみつけかた』(公開中)、『正欲』(11月10日公開)、『市子』(12月8日公開)などに出演
【やきとん ひろし】
住所/ 東京都渋谷区神山町9-14
営業時間/ 18:00~22:00
定休日/ 日曜・祝日
写真・野澤亘伸