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坂本冬美の『モゴモゴ交友録』伊東四朗さんーー「あの涙はどういう意味の涙だったんだろう」という心遣いのお言葉に感謝
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2023.11.18 06:00 最終更新日:2023.11.18 07:59
伝説のアイドルグループ、キャンディーズをメインにしたバラエティ番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ』(テレビ朝日系)に颯爽(さっそう)と登場したのが、画家のサルバドール・ダリを彷彿とさせる口髭をつけた伊東四朗さん扮する、ベンジャミン伊東です。
小松政夫さんが演じる小松与太八左衛門を従えてコタツの上で踊る『電線音頭』は、もう最高で。大人たちは、「そんなの見るんじゃない!」と声を荒らげましたが、叱られれば叱られるほど、子供は夢中になります。
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その伊東さんと初めてご一緒させていただいたのは、デビュー7年め。『夜桜お七』を歌わせていただいた翌年のことでした。
NHKで放送された番組のタイトルは『コメディーお江戸でござる』。江戸の町に暮らす町人の暮らしをコミカルに描いた喜劇で、なんとなんと、お客様を入れて公開で収録をおこなうバラエティ番組です。お芝居が苦手なわたしには、う〜〜〜ん、ちょっと荷が重いような……モゴモゴモゴ。
公開収録に向けてのスタートは、まず本読みから。次に立ち稽古があって、入念なリハーサルを繰り返し、いざ本番へ。セリフを間違えたらどうしよう? 歩く方向を間違えたらどうしよう?
不安しかないわたしは、ひとつひとつ確かめながらちょっとずつテンションを上げていき、本番は毎回ドッキドキです。
ところがです。座長の伊東さんは、本読みも立ち稽古もリハーサルも淡々としていて、何ひとつ変わりません。アドリブ? ないない。毎回、きっちり台本どおりです。
ベンジャミン伊東さんとお会いできるのを楽しみにしていたわたしにとっては、えぇぇぇぇ〜!? です。
でも、もっと驚いたのは、淡々とされているのに、しゃべり方ひとつ、間の取り方ひとつで、そこに笑いが起きてしまうことでした。これは、ものすごいことです。
もしかすると、すべて計算され尽くしたうえでの芸なのかもしれませんが、だとしたら、それを一切表に出さない伊東さんの芸は唯一無二、まさに天才、名人芸です。
伊東さんとは、その後も何度かご一緒させていただく機会があり、その都度多くのことを学ばせていただきましたが、今も忘れることのできない心の傷として残っているのが、NHKで放送された『家族で選ぶにっぽんの歌』です。
1年に一度、伊東さんがお父さん役で、懐メロから最新ヒットソングまで幅広い層の方に歌を届けるという音楽番組です。
あれは……第4回(1997年)に出演させていただいたときのことでした。
このときわたしは、美空ひばりさんの『柔(やわら)』を歌わせていただいたのですが、直前に急性膵炎(すいえん)を患い入院。なんとか退院はしたものの、とても体調万全とはいえない状態で、思うように声が出せません。
それが、哀しくて悔しくて、情けなくて。全員で『川の流れのように』を歌唱しているフィナーレの途中、思わず泣いてしまったのです。誰にも気づかれませんように、と願いながら……。
でも、伊東さんはそれを見ていらっしゃったのでしょう。数年後、明治座公演のパンフレットで「あの涙はどういう意味の涙だったんだろう」というお言葉をいただきました。
きっと、おそらく、伊東さんはすべてわかったうえで、その言葉を贈ってくださったのだと思います。
伊東さんのお心遣いには感謝しかありません。その節は本当にありがとうございました。
また、お会いしたときには、『お江戸でござる』のときのように、「お冬ちゃん」と呼んでください。その日を楽しみにしています。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、著書『坂本冬美のモゴモゴモゴ』(小社刊)が発売中!
写真・中村 功
取材&文・工藤 晋