
映画『国宝』で主演を務める吉沢亮
「ひと言でいうと、歌舞伎に関する愛が爆発した豪華絢爛な作品です」
こう語るのは、映画評論家の前田有一氏だ。公開3週めで興収21億円を突破、週間興収ランキングで、ディズニー映画『リロ&スティッチ』を逆転して首位を奪取した『国宝』。連日SNSに感想を投稿する観客が続出し、いまや社会現象の様相を呈している。
実際、本家本元の歌舞伎関係者たちからも『国宝』を絶賛する声が後を絶たない。
「梨園に携わる者はもう8割方が観ていると思います。歌舞伎役者のなかで、最初に観に行ったのは中村隼人さんでした。隼人さんは、上方歌舞伎の御曹司を演じた横浜流星さんに袴の畳み方を教えた人です。おもしろかったのは、梨園とはつながりがなかった片岡愛之助さんも『国宝』を絶賛していたこと。あの人もずいぶんいじめられていましたし、他人事じゃなかったはず。
影響が大きかったのは、市川團十郎さんが褒めたことでしょうね。梨園で格上の市川宗家の團十郎さんが『観てほしい作品です』とSNSに投稿したのは、このうえない賛辞。CM以上の効果があったと思います。松本幸四郎さんも、七月大歌舞伎の『鬼平犯科帳』の会見で『国宝』を引き合いに出していましたが、歌舞伎界としては『国宝』で歌舞伎に興味を持ってくれた人たちが、歌舞伎に足を運んでくれればそれで万々歳なんです」(歌舞伎関係者)
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吉沢亮が演じた、歌舞伎とは無縁の主人公・三代目花井半二郎のモデルは、“人間国宝”坂東玉三郎とされている。田中泯の小野川万菊は同じく“人間国宝”の六代目中村歌右衛門と、関係者が見ればモデルも歴然としている。
「歌舞伎指導には中村鴈治郎さんがつかれていましたが、ずいぶん断わられ、ようやく落ち着いたと聞いています。歌舞伎興行元の松竹の知人は、『なんでこれがウチじゃなくて東宝なんだ!』と地団駄を踏んでいました。衣裳も劇場も貸し出しているのに、なぜ東宝に取られたかと言えば、松竹系では公開館数が少なすぎて製作費のバジェットに追いつかなかったから。東宝は国立劇場の客席を持ち込んでスタジオに劇場まで造ってしまったんですから、松竹には無理な話でした」(同前)
一部で報道された『国宝』の製作費は、12億円。一般的な邦画の製作費は3億円なので、4倍はかけた計算になる。歌舞伎関係者も唸る出来栄えなのも納得だ。だが、あえて粗探しをしてもらうと、作中には“3つの嘘”があるという……。
「『二人藤娘』のときに横浜さん演じる俊介が、父親のお弟子にうなじにおしろいを塗らせているのはおかしい。いくら坊ちゃんでも、歌舞伎役者なら顔(化粧)は子役でもない限り、全部自分でします。もう一点、吉沢さん演じる喜久雄が『曾根崎心中』のお初の代役で涙を流しますが、泣きの芝居をするとき、私の家では本当に泣くのはよくないと教わります。
役者が泣いても、前3列くらいにしか見えない。声を震わせ、肩を揺らさなければ、二階、三階席のお客さんには見えない。あれは映画のための演技で、涙を流すのはおかしいんです。あと、テロップで『女形』と出ていましたが、今は『女方』。読み方も“オンナガタ”で通しています。“オヤマ”は使いません」(同前)
前出の前田氏は、高畑充希、森七菜を挙げ、「お2人ともいい芝居をしているのに、もったいなかった」と話した。
「ヒロインたちが説明不足で、彼女たちの情念、報われない愛が描き切れていなかったように感じました。森さん演じる喜久雄を慕う彰子は最初こそ妹キャラですが、徐々に“女”の部分も見せる、ある意味ショックな役どころ。閉鎖的な歌舞伎界のなかで、濡れ場は物語の重要な部分であり、喜久雄が芸の道に邁進するなかでいろんな女性たちと関係を築いていく絶対不可欠なシーン。濡れ場には、森さんの覚悟が表われていました。高畑さん演じる春江と喜久雄の激しいキスシーンも、献身的に愛を注ぐ情熱は表現されています」
公開から週を重ねても観客動員の勢いが止まらない『国宝』。上映時間は約3時間。あなたも自分の目で確かめてみては?