エンタメ・アイドル
『坂本冬美のモゴモゴ紅白』・第11回/なぜ、わたしだったのか…謎の「美少女戦士セーラームーン」

坂本冬美
「変わるにっぽん・変わらぬにっぽん」をテーマに、 “101歳の双子” として有名になった、きんさんぎんさんと、 “天才子役” 安達祐実ちゃんの開会宣言で幕を開けた『第44回NHK紅白歌合戦』。
天童(よしみ)さん、(長山)洋子ちゃんをはじめ10組の方々がこの年、初出場を果たしましたが、じつはもう2組、安室(奈美恵)ちゃんとMAXさんが、森口博子ちゃんのバックダンサー「SUPER MONKEY,S」として、『紅白』の舞台を踏んでいます。
さすが『紅白』といいますか、やっぱり『紅白』といいますか……。こういったトリビアを知っておくと、さらに『紅白』が楽しくなりますよ。
『紅白』ならではということでいうと、派手な応援合戦と、毎年趣向を凝らした企画もそのひとつです。
【関連記事:『坂本冬美のモゴモゴ紅白』・第10回/なぜか、デビュー6年めのわたしの名前が『紅白』の司会候補に】
この年の企画は、パントマイム風のダンスやマイケル・ジャクソンをミニマム化したマイクロ・ジャクソンショーなど全部で7つ。そのなかのひとつが……『紅白』史に燦然と輝く伝説として残っている(?)、西田ひかるちゃん、森口博子ちゃん、そしてわたし、坂本冬美が扮した「美少女戦士セーラームーン」です(苦笑)。
ーーなぜ、わたしだったのか!?
謎は今も謎のままですが、当時の私にはいっさい拒否権はありません。 “こういう企画があるんですが、どうでしょう?” という打診ではなく、わたしのところに降りてきたときには、すでに話が決まっていました。
イントロと同時に、せり上がりから登場。ひかるちゃん、博子ちゃんへの声援、 “わ〜〜っ!” とか “きゃ〜〜っ!” という声に、 “え〜〜〜っ!?” という声が混じっていたような気がしたのは、わたしの錯覚でしょうか、モゴモゴモゴ(笑)。
当時は恥ずかしくて、思い出したくない出来事でしたが、今になってみると、何かあるたびに笑い話にできるし、皆さんも話題にしてくださるのでやってよかったと、NHKさんには感謝です(笑)。
この年、わたしの出番は52組中45番め。 “今年はこの歌で” とNHKさんからお話をいただいたのは、大河ドラマ『炎立つ』のイメージソングとして作っていただいた『恋は火の舞 剣の舞』でした。
詞を書いてくださったのは、多夢星人という別名を持つ阿久悠先生。曲を作ってくださったのは堀内孝雄さんです。
自分で言うのもなんですが、すごく素敵な曲です。当時のわたしにはもったいないようないい歌です。ただ……。
その年の6月に亡くなった恩師・猪俣(公章)先生に、まだ『紅白』では歌ったことがなかったデビュー曲『あばれ太鼓』を聴いていただきたかったという思いも、心のどこかにあったような気がします。そんな気持ちがゼロだったかと聞かれたら、そうではなかったような気がします。
先生を偲んで、森進一さんが『さらば友よ』を歌われたように、都はるみさんが『おんなの海峡』を熱唱されたように、夏ちゃん(伍代夏子)が『恋ざんげ』でしっとりと猪俣メロディを歌い上げたように、わたしも……。
放送が終わると、「今年はよかったぞ」とか「ここがなぁ〜」と渋い顔をなさったり、毎年必ずああだこうだと感想をくださった先生がもういない……。先生から何も言っていただけない初めての『紅白』を思い出すと、笑顔の先生と、ちょっと寂しそうなお顔をなさった先生の、ふたつの顔が浮かんできます。
さかもとふゆみ
1967 年3月30日生まれ 和歌山県出身『祝い酒』『夜桜お七』『また君に恋してる』『ブッダのように私は死んだ』など幅広いジャンルの代表曲を持つ。現在、最新シングル『浪花魂』が好評発売中!
写真・中村 功、産経新聞
取材&文・工藤 晋