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「嘉風」超ロングインタビュー「僕にとって相撲は趣味です」

エンタメ・アイドル 投稿日:2018.09.09 16:00FLASH編集部

「嘉風」超ロングインタビュー「僕にとって相撲は趣味です」

 

 2017年の九州場所。横綱・白鵬が取組後に土俵下で「待った」を主張し続け、醜態をさらした事件は記憶に新しい。その相手こそ嘉風(36)。そして翌場所も嘉風は白鵬を撃破。記録より記憶に残る相撲を目指す、異端の力士の人生を紐解いたーー。

 

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 相撲を仕事にしたら、どうなるのだろう。
 好きで始めたことだとしても、仕事にしてしまったら苦しい時も出てくるのではないか。

 

 それを何年も続けていくとしたら、それはどういうことなのだろう。体力の限界はやがてやってくる。活きのいい若手も次々に現われる。どんな気持ちで日々を過ごし、土俵に上がるのか。そんなことが知りたくて、現役生活15年目、嘉風関の元を訪れた。

 

 嘉風関は小学校から相撲を始め、中学・高校と続けて日体大に入学し、天覧試合でもあった全日本相撲選手権大会で優勝。アマチュア横綱となったのちに大相撲に入っている。相撲取りになるのも当然のような経歴だ。

 

「相撲は昔から好きだったんですよ。なぜかって、うまく言語化できないんですけど、フィーリングですね。中学生の時、自己紹介には、将来は力士になると書きましたから」

 

 尾車部屋の応接室。寒くないですか、とクーラーを調節してくれる嘉風関と、僕は向かい合う。

 

「そういうのって、現実を知るにつれて諦めることが多いと思うんですが、真っ直ぐに叶えられたんですね」

 

「あ、でも何度か諦めてますよ」

 

 あっさりと首を横に振る嘉風関。

 

「えっ?」

 

「高校に入った頃ですかね、稽古がめちゃくちゃきつくて。中学までは楽しく相撲させるようなクラブに通っていたので、かなり感覚が違いました。これは、中学を出てすぐ力士にならなくて良かったと思いましたね。とりあえずそこで一回諦めた」

 

 嘉風関は苦笑する。

 

「しんどくてね。相撲って夏に大会があるから、冬はオフなんですよ。トレーニングするくらいで。でも、僕たちは冬も稽古をやらされた。なんでだよ、って愚痴ってましたよ。

 

 ただまあ、ある日ふとトイレに行った時にね。こう、雪が降ってたんですが。突然体に何かが憑依したみたいに、悟ったんですよ。文句を言うのは違うなって。

 

 これは自分が選んだことであって、先生の顔色窺ってやるもんじゃない。しっかりやんなきゃいけないと。それからは真面目にやりました。でも、大相撲に進もうとは、全く考えていませんでした」

 

「それは、日体大に入ってからもですか?」

 

「はい。あ、相撲自体をやめようと思ったことはありません。社会人になって、趣味として続ければいいと思っていたんで。体育の先生になるつもりでした」

 

 しかし実際には、嘉風関は教員の道を捨て、大相撲を選ぶ。大転換に思えるのだが、何があったのだろう。

 

「日体大でレギュラーとして使ってもらえまして。そうすると全国にも名前が知られるわけですよ。それが自信になった。そして、大学三年時の全日本選手権で優勝してしまったんです」

 

 嘉風関は「しまった」というネガティブな言い方を強調した。

 

「そうしたら、それから相撲が面白くなくなってしまいました。力が出ないんですよ」

 

「どういうことですか?」

 

 僕は二回り以上体の大きい、嘉風関をまじまじと見る。

 

「いやもう、本当に力が出せないんです。何でしょう、慢心したつもりはなかったんですが、モヤモヤするんですよ。相手を前にして、こいつに必死こいて勝つのはダメだな、とか。泥臭いやり方はチャンピオンの相撲じゃないとか、頭をよぎってしまうんです」

 

 肉体の問題ではなく、心の問題だった。日本一になった者にだけわかる、日本一の重みだろうか。

 

「このままだと、相撲を嫌いになると思いました。それが凄く怖かった。相撲を失うのが恐怖だった。だから、大相撲に行くしかないのかなと。全力で戦える場に身を置いて」

 

「もし教員になって、アマチュアで相撲をやっていたら……」

 

「相撲、やめてたと思いますね」

 

 相撲が好きだから力士になったのではない。相撲を嫌いになりたくなかったから力士になったのだ。同じような表現だけど、意味合いはかなり違う気がした。嘉風関の中で、相撲よりも己の気持ちの方がウェイトが大きいのを感じるのだ。

 

「でも、すぐに割り切れたわけではないです。色々な人に相談もしたし、体が小さいからやめとけとか、反対もされました。でも実際に尾車部屋に入って稽古を始めたら、モヤモヤが一瞬でなくなったんですよ。この1年何を悩んでたんだろう、と思いましたね」

 

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