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吉本新喜劇を60年支え続けた「大槻衣裳」裏方の矜持とは?

エンタメ・アイドル 投稿日:2019.05.11 16:00FLASH編集部

吉本新喜劇を60年支え続けた「大槻衣裳」裏方の矜持とは?

 

 大阪市の静かな住宅街にある、3階建ての事務所。舞台に欠かせない衣装の多くはここで生まれ、保管されている。吉本芸人なら誰もが知る「大槻衣裳」代表の大槻忠之さんに話を聞いた。

 

 

――吉本新喜劇の衣装を担当するようになったきっかけを教えてください。

 吉本興業の創業者である吉本せいさんのころからの付き合いなんです。私の高祖母が質屋をやってたんですけど、昔は、質流れで着物なんかが多かったんでしょうな。

 

 そんなんで「衣装出さへんか」とはじまったらしいです。吉本さんがいま創業107年で、私もはっきりは知りませんが、かれこれ90年近い付き合いやと思います。

 

――その流れで新喜劇にも立ち上げから関わるようになったんですね。

 そうみたいです。(新喜劇がはじまった)60年前は私も11歳くらいなので、ほとんどわかりませんのですけど。

 

――具体的には普段どのような仕事をされているのでしょうか?

 座長さんと作家さんが作った台本をもとに打ち合わせをするんですけど、日にちがないんですよ。1週間もないですね。新しく作る衣装があるときは大変です。(公演に)穴あけるわけにはいかへんから、どんなことがあろうと、絶対に間に合わさなあきません。

 

 それで月曜日の夜に劇場が空いてから稽古をやるんです。そこではじめて衣装を着てもらって、次の日には初日の本番を迎えます。普通の劇団では考えられないと思いますけど。それを、京都、梅田、難波の3館でやってるんで。

 

――基本的にはありものの衣装を用意することが多いんですか?

 買い足したり、いろいろしますわな。逆にこちらから「こんなんええんちゃいますか」と提案することも。作りもんは時間がかかるので、よっぽど特殊な衣装の場合はさすがに事前に言うといてもらいますね。

 

――前夜の稽古で衣装にダメが出ることもあるんですよね。

 そうですね、そこではじめて衣装を着て本番さながらにやるので、サイズが小さいとか、変えてくれとかなると、翌朝の1回目までに間に合うように修正します。なので、昔は夜中の3時、4時になることもザラでした。最近はちょっとうるさなって、0時前後には終わるようになってます。

 

――新喜劇の衣装を用意するうえで意識していることはありますか?

 酒屋さんなら前掛けに「酒」って書いたり、植木屋さんなら「植木」って書いた法被着てもらったり、職業がはっきりわかるようにしてます。実際にはそんな格好してる人いないですけど、そこはお調子ですね。

 

 ヤクザにしても、シリアスなドラマではダークスーツだけど、新喜劇では赤や青や黄色のスーツ。見た目からパッと明るい感じにしようと努めてます。

 

――明るくするのは、何か理由があるのでしょうか?

 吉本新喜劇だけじゃなく「松竹新喜劇」というのがあるんです。松竹新喜劇は人情もんで、涙の中にぱっと笑いが入るようなお芝居だけど、吉本のほうはどっから見ても笑いが入ってくるような感じなので、なるべく明るくしたいと思ってるんです。

 

――スタッフさんはいま何人いらっしゃるんですか?

 常勤は10人くらいです。少数精鋭主義でやらせていただいてます。

 

――本番も劇場につくのでしょうか?

 初日は、うちからひとり行きますね。それ以降は、代役の人が出たり、衣装が破れたりしたら持って行きます。

 

――東京や地方での公演にも一緒に行かれるんですか?

 ルミネtheよしもとの場合は、若手の方だと東京の衣装屋さんがやってます。辻本(茂雄)君や川畑(泰史)君はうちから送ってますね。辻本君なんかはけっこうこだわりが強いので。まあ、そんだけ一生懸命なんですわ。

 

――座長による違いはありますか?

 それぞれに特徴がありますな。小籔(千豊)君もこだわりはありますけど、頭がええし理解もあるんで、こちらがちゃんとやっていれば、これでいいですと言うてくれてます。

 

――すっちーさんや酒井(藍)さんはいかがですか?

 わりとうちに一任してくれる場合が多いです。「こんなんどうや」、「じゃあそれでお願いします」みたいな。ほんで、藍ちゃんの場合は、サイズが……。

 

――新たに作ることが多いですか?

 ほとんどね。藍五郎のホテル従業員の服なんて、2着をつぶして1着にしてますねん。そういう大変さはありますけど、みんなに愛されてるええ座長さんやと思います。やっぱり座長さんになる人は気遣いがありますよ。

 

――2019年の全国ツアーも一緒にまわられるそうですが、過去には海外公演にも行かれたんですか?

 そうですね。20年ほど前のニューヨーク公演かな、舞台上で桑原(和男)さんの早着替えがあって、それを手伝う黒子を現地の方にお願いしたんだけど、日本の服やから全然できへんの。

 

 それで急遽、私が黒子をやりましたね。海外で最終日が終わったら、衣装が数点なくなってたこともありました。特殊な服ばかりやから現地調達もできないし、最終日じゃなかったら冷や汗もんでしたわ。

 

――これからの吉本新喜劇に期待することはありますか?

 各座長が1週間単位で、一生懸命に考えてる姿を見てたら、なにかを期待しようなんておこがましいですわ。ただ、打ち合わせだけは、ちょっと早めにしてもらえたらうれしいですね(笑)。

 

大槻忠之(おおつき・ただし)
90年前から吉本興業の衣装を担当する大槻衣裳の3代目代表。忠之さんは花紀京や岡八郎などが座長だった時代から携わり、往年の名俳優たちとも仕事をしてきた。

 

(吉本新喜劇60周年公式スペシャルブック)

 

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