少年院を出て、母親の紹介で錦野旦のカバン持ちに。菅原文太、美輪明宏、渡辺えり……。芸能界の恩人たちに出会い、演劇学校にも通った。
「体がいくつあっても足りないような日が続いたけど、夢って人にエネルギーとか頑張りを与えるんだね。グレてたころは、仕事をサボることばっかり考えてたのにね(笑)」
18歳で “この世界” に飛び込んだが、役者だけで食べていけるようになったのは、33歳のとき。さらに、35歳で出演した『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ系、1997年)の “ピカリン” 役が大当たりした。
2003年に出版した自伝『不良品』をきっかけに、バラエティ番組にも多数出演するようになる。2007年、劇団「PATHOS PACK」を旗揚げ。すべての脚本を自身で書き、演出もできるかぎり手がけている。
「小学校4年の文集でも、みんなが遠足の感想を書いてるなか、ひとり物語を書いてた。3つめの高校の『卒業生を送る会』でも、脚本と演出を担当したから、やりたかったんだろうね。
それに、劇団の若い人と向き合ってることで、“伸びてくる背筋” ってあるんだよ。『偉そうなことばっかり言ってたら、いかん』って。
俺は莫大な時間を使って、いろんな人に鍛えてもらってきた。それを若い人に渡さなかったら、自分だけおいしい思いをしたことになっちゃう。自分がしてもらったように、小さいチャンスがあったときに何かができるぐらいには、育ててあげたい」
宇梶がそんな思いを抱くのは、スタ丼のオヤジをはじめ、この町の “大人たち” のあたたかさに支えられてきたからだ。
「よく行っていた焼き鳥屋も『宇梶くん、頑張ってる? 美味しいもの食べなさい』って、ティッシュに3000円とかくるんで、くれるわけ。30過ぎたら1万円、40過ぎてももらってた。
それで『俺もう、テレビ出て稼いでるんだよ』って言ったら『だったら、若い人や後輩にご馳走してあげなさい』って。俺にはこういう人たちが、そばにいたんだよね。
だから、俺も年下にはご馳走するようにして、そいつには『後輩に奢ってあげて』と伝えてる。そういうことなんだよね。世のなか、捨てたもんじゃないと思うよ」
取材時、ひとりで来店し、スタ丼を平らげたあとも、ずっと店内に残っていた青年がいた。聞くと、彼は宇梶に会いたくて、地方から上京。週に1回、この店に通いながら、そのチャンスを待っていたという。宇梶は彼の話に耳を傾けてからこう言った。
「劇団の飲み会をやるからおいでよ」
うかじたかし
1962年8月15日生まれ 東京都出身 錦野旦の付き人、菅原文太の弟子を経て、俳優デビュー。その後、数多くの作品に出演し、近年はドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2016年)、『なつぞら』(NHK、2019年)、映画『キングダム』(佐藤信介監督、2019年)などに出演。3人の50代男性の恋心を描く舞台『男の純情』(作&演出・水谷龍二)が2月2日、神辺文化会館(広島県福山市)を皮切りに上演予定
【SHOP DATA/名物 スタ丼 サッポロラーメン 国立本店】
・住所/東京都国立市西2-10-4
・営業時間/11:00~23:00
・休み/水曜
(週刊FLASH 2020年1月21日号)