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小市慢太郎、自然食カフェで悟る「役者は何度も生まれ変わる」
エンタメ・アイドルFLASH編集部
記事投稿日:2020.03.27 06:00 最終更新日:2020.03.27 06:00
そうした役者生活のなかで、小市は、言葉にできない“ギフト”を得るようになった。
「当時の僕は、完璧主義者なところがあって、今日の舞台を終えたら、明日はそれ以上でないと納得できませんでした。千秋楽まではひたすらストイックで苦しい。
それでも、公演を重ねていくと、千秋楽に“ギフト”があるんです。それは、『人生を一生懸命生きてきて、あの世に行くときに救われる』のに、近い感覚だと思います」
2000年、桐野夏生原作のベストセラー『OUT』が舞台化された(飯島早苗脚本、鈴木裕美演出)。主婦たちが、死体解体のバイトをする話だ。小市は、殺人の前科がある、地下クラブのオーナーを演じた。
「クソみたいな人生を送る最悪の役なのに、いざ演じて千秋楽を迎えると、なんというか……大きな幸せに包まれて、自然と泣いていたんです。そのとき、『人ってどんな生き方をしても、救いがあるんだ』と感じました」
役者は、「ドラマや芝居という短い時間軸で、“転生”を繰り返している」という。
「あとで作品の中の自分を映像で見ても、正直いいか悪いか、何もわかりません(笑)。評価もあまり気になりません。ただ、自分の中に、たしかに体験が残るのです」
近年は、ドラマや映画を中心に活動している。
「僕は、先を考えて仕事をするタイプじゃないですし、自分が前に出ようという意識も、演じたい役柄もありません。ただ縁を信じて、流されていくだけです。そして、作品という鋳型に僕を流し込んでもらえれば、それでいい」
「いな暮らし」の縁側の席からは、庭の大きな柿の木が見える。その向こうから、自転車を押したご近所さんがやってきた。店の母娘とご近所さんとのやり取りを、小市は、目を細めながら見ていた。
「自分は酷い役だったり、悪役でもかまわないのですが、『観終わったあと、絶望しか残らないような作品には与したくない』と思います」
小市は、役を演じるあいだ別世界の人間になり、演じ終えるとこの世界に戻ってくる。“ギフト”とは、この世界を新鮮な目で見たときに湧き起こる、希望のようなものかもしれない。
こいちまんたろう
1969年2月15日生まれ 大阪府出身 同志社大学在学中に演劇サークル「第三劇場」に所属し、卒業後はマキノノゾミが主宰する「劇団M.O.P.」に参加。映画初主演作は『張り込み』(2001年、篠原哲雄監督)。3月6日公開の映画『Fukushima50』(若松節朗監督)に出演
【SHOP DATA/いな暮らし】
・住所/東京都稲城市押立1744-46
・営業時間/9:00~17:00
・休み/月曜、日曜
(週刊FLASH 2020年3月17日号)