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医師が語ったガン治療「ここまでなら手術を受けたい」の境界線
ライフ・マネーFLASH編集部
記事投稿日:2016.08.10 07:00 最終更新日:2016.08.10 07:00
「記事のコピーを片手に怒鳴り込んでくるんです」とある医師が憤る。最近、雑誌のコピーを片手に「手術したくない」と怒る患者が全国の病院で増えている。紙面に躍る文言は「やってはいけない手術」「飲んではいけない薬」。
患者が「まな板の鯉」である時代は終わったが、本当に手術しなくていいのだろうか。そこで、本誌は全国78人の医師のアンケーをし、「自分が受けたい手術」と「受けたくない手術」の境界線を探った。
千葉県市原市で宗田マタニティクリニックを運営する宗田哲男院長は、「可能なら原発巣(最初に腫瘍ができたところ)や転移巣は減らしておくべき」と、積極的に手術を受けたい考えだ。
医療問題についてテレビや書籍などを通して発信をつづけるNPO法人医療制度研究会の本田宏副理事長はこう語る。
「たとえば、根治可能な進行状況の大腸ガンの場合、私は腹 腔鏡手術を受けたいと思っています」
腹腔鏡手術とは、お腹に5mm〜2cm程度の小さな穴を開けて、内視鏡や細い手術器具を入れておこなう手術のこと。患者の負担が少なく、術後の回復が早いとされるが、週刊現代は危険性を指摘しつづけている。
この点について、本田氏はこう言う。
「私も、肝臓ガンや膵臓ガンの場合なら、腹腔鏡手術は受けたくない。治療の安全性が確保されていないからです。週刊現代のように十把一絡げに『危険だ』というのは、治癒可能な患者さんに関しては、大きな問題です」
群馬大学病院で8人が死亡した事件でも、患者らが受けていたのは肝臓ガンの腹腔鏡手術だった。ガン外科医・腫瘍内科医で、セカンドオピニオン外来「東京オンコロジークリニック」代表の大場大医師はこう語る。
「群馬大学の例を挙げて『腹腔鏡手術すべてが危険だ』というのは乱暴ですが、肝臓、胆囊や胆管、膵臓などの肝胆膵領域の腹腔鏡手術は、トレーニングと手術経験を積んだ外科医でない と、早期でも難しいのは事実。難度が高く、ふだんは胃ガンや大腸ガンのオペしかしない医師も、同じ消化器ということで、執刀することがあります。年に数例しかやっていないような外科医の手術は避けたほうがいい」
医療ジャーナリストの松沢実氏はこう語る。
「腹腔鏡手術は、上手な先生にオペをしてもらうことが大切。その判断材料のひとつが手術の数を示す症例数です。地方は大規模な総合病院に一極集中することがありますが、一般的には症例数が多ければ、それだけ信頼できるといえます」
症例数は「病院情報局」などで調べられる。また、日本肝胆膵外科学会のHPでは、 肝胆膵外科の高度技能指導医の名簿が公開されているので、参考になる。
食道ガンも手術が難しく、「受けたくない」と答えた医師が複数いた。食道は壁の厚さが4mm程度と薄いためで、転移も起こりやすい。そのため、食道ガンは早期のステージⅠでも「進行ガン」に分類される。
「食道ガンは早期での治療でも、手術か、抗ガン剤と放射線治療を併用する化学放射線療法になります。歌舞伎役者の中村勘三郎さん(享年57)は食道ガンの手術を受けましたが、その約4カ月後に亡くなった。QOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を考えて、手術ではなく、化学放射線療法という選択もあったかと思います。もし、自分が進行した食道ガンにかかったら、手術を拒否するかもしれません」(前出・大場氏)
以下、本誌のアンケート結果を掲載しておくので、受ける受けないの参考にしてほしい。
Q 自分がガンになったら「受けたい手術」は?
・自分が腎臓ガンになれば、ダ・ヴィンチ(ロボット)で腹腔鏡手術を受けたい(60歳・泌尿器科)
・胃の上部の早期ガンで亜全摘手術(目標臓器の大部分を取り除く手術)を受けた。3分の2ほど胃を残す方法もあったが、合併症や残胃ガンも少なかった(61歳・内科)
・切除可能なら、リスクがあっても根治手術を受けたい(55歳・消化器外科)
・消化器分野であれば、開腹手術よりも内視鏡手術か腹腔鏡手術を受けたい(52歳・外科)
・縫合不全は腹膜炎などを引き起こし大変怖い。縫合が上手な医師を選びたい(67歳・消化器科)
・早期のうちに縮小手術を受けたいと思います。切除する範囲が少なく、その臓器の機能が残せ、その後の生活に影響が少ないからです(30歳・婦人科)
・極端に研究に走っている病院よりも、臨床がメインの病院で受けたい(石川県立病院など)(48歳・婦人科)
・がん研有明病院か国立がん研究センターであれば、部位や進行を問わず、信頼しておまかせしたい(62歳・内科)
Q 自分がガンになったら「受けたくない手術」は?
・進行したガンで、もともと手術の生存率が高くないもの(48歳・婦人科)
・食道ガンなど、食事ができなくなるものは、できるだけ放射線治療の可能性を探りたい(39歳・外科)
・特にはないが、群馬大のように、手術同意書がずさんな病院では受けたくない(43歳・外科)
・余命数カ月のようなステージが進行している末期のガン(37歳・消化器外科)
・仮に手術に成功しても、十分な社会復帰や収入が期待できず 周囲から望まれていない場合(58歳・内科)
・自分の年齢を考えると、どんな種類のガンであろうと手術は受けない。ただ麻薬を使用した疼痛緩和のみ希望する(70歳・婦人科)
・膵臓ガン(52歳・消化器外科)
・私はガンの場合は胆肝膵領域の腹腔鏡手術は受けたくない。合併症が多いというリスクがあるので(48歳・外科)
・人工肛門になるような手術(30歳・消化器科)
・全身麻酔は避けたい。副作用や後遺症のリスクのため(44歳・整形外科)
・従来の手術と比べて治療効果があるかどうか、データを集める段階の「研究手術」は受けたくない(53歳・内科)
(週刊FLASH2016年7月26日号)