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南極ではどうやってトイレをするの?…観測隊員が教えます!ライフ・マネー 投稿日:2020.08.10 16:00

南極ではどうやってトイレをするの?…観測隊員が教えます!

 

 2017年11月27日。第59次日本南極地域観測隊は東京成田国際空港を出発、翌28日にオーストラリア西部の街パース経由で同国内の港町フリーマントルに到着した。

 

 フリーマントル港には、観測隊より約1ヶ月早く日本を出発した海上自衛隊の砕氷船「しらせ」が待っていた。最初期の1956年からそうだったように、観測隊の輸送は海上自衛隊が担う。現在ではここから「しらせ」にて海路で南極を目指す。

 

 

 12月20日、他隊員たちは「しらせ」からヘリで移動を始め、翌21日には多くの隊員が昭和基地へと向かった。そんななか、筆者を含む大気観測を行うチーム(大気チーム)は「しらせ」船内に残っていた。

 

 というのも、夏季は昭和基地ではなく南極大陸にある「S17」という観測拠点で観測活動を行うのだが、事前準備として日帰りでS17に向かうことになったからである。いきなり南極大陸へ。期待よりも先に緊張する。

 

 S17観測拠点は、昭和基地に近い南極大陸沿岸部から大陸内部にあるドームふじ基地にかけて確立されたルート(安全な移動が一度確認された経路)の一拠点だ。

 

 沿岸部のS1から始まってS2、S3と進むにつれて数字が増えていき、S16、S17へと続いてゆく。今回はヘリコプターによる空便で一気に現地付近まで飛行する。S16およびS17は無個性な一拠点ではなく、他の地点と比べて重要な役割がある。S16は雪上車の駐車場であり、S17は観測拠点および航空機の発着場だ。

 

 大気チームは、夏の間は何度か昭和基地や「しらせ」と行ったり来たりするものの、基本的に5人きりで周囲に雪と氷しかないS17を拠点として観測活動を行う。

 

 S17の観測小屋は2つの白い直方体の建物連からなる。風上側にあるやや大きめのものが居住棟、小さいほうが発電棟である。居住棟内部は、会社の共用の常用部屋のようで、日本で引き払ってきたアパートの部屋より広い。

 

 部屋の真ん中には四つ足のテーブルが4つ。テーブルの上には何もない。周りはパイプ椅子が8つ。部屋の奥にも10ほどのパイプ椅子が畳まれている。設立当初は十数人が一度に訪れ、観測を行うこともあったという。

 

 居住棟には温水循環装置があり、隣の発電棟から電気供給を受け暖房も使える。オール電化のキッチンがあり、備え付けの冷蔵庫は2ドアに野菜室と2つの冷凍庫つき。鍋や包丁、皿もある。3つあるIHコンロの下には電子レンジやグリルも備えていて近代的だ。

 

 キッチンには当然シンクや蛇口があり、蛇口をひねれば水が出……アレ出ない。なんだこの蛇口。トラップか。良い度胸だ。この建物が設立された当初は違ったのかもしれないが、現在のS17の蛇口からは水が出ない。

 

 しかし外は雪原。バケツ複数個に雪を詰め、発電機の稼働で暖まっている発電棟に置いておけば水になる。日本で一般的に使用されるようなプラスチックのバケツより一回りほど大きいバケツに雪を詰めると、半日から1日程度ですべて融ける。多少水を溜めておいてその上に雪を入れると少し効率が上がる。

 

 設備と水は何とかなったところで、次に気を遣うべきは食料の保存法である。

 

 備え付けの冷蔵庫がいかに大型とはいっても一般家庭用、5人×20日以上の食料を溜め込めるほど巨大なわけがない。であれば環境を活用するしかない。外が零下であれば外気で保存できそうなものだが、ただ外に放置して冷凍することはできない。

 

 南極では日差しを遮るものがほとんどないため、まっすぐな太陽が差し込み続ければ冷凍食品など簡単に融けてしまうからだ。

 

「南極は寒すぎて菌がいない」という話もあるが、人間という環境汚染生物が入ってきているのだ。微生物は撒き散らかされるし、そもそも食品は無菌状態ではない。南極でも温まって活発に菌が活動すれば、食べ物は腐敗する。

 

 そういうわけで、冷凍が必要な糧食はビニールシートで覆ったうえで雪を被せ、温まらないように対処をしておく。

 

 食うもの食って、飲むもの飲んだら、あとは出すものを出さなくてはならない。S17のトイレは小便用と大便用に分かれている。

 

 小便用のトイレは発電棟の風下側にある。吹き曝しの中、ぽつねんと赤い旗が立っている――これが小便用トイレだ。大自然の偉大さを感じながら、静謐な空間の中で純潔の雪原をじょぼじょぼと汚すことができる。

 

 きちんと決めたところで排尿しないと、中世ヨーロッパのような糞尿ワンダーランドになってしまうので、トイレの概念は大事である。

 

 小便をするときに特に気をつけなければならないのは、風である。風は体感温度を著しく下げる。寒空の下で肌を露出させていれば冷えるが、風の中ではその度合いは増す。日頃は衣服に守られている猥褻物であればなおさらで、であればボロンとするときには風に背を向けたくなるものだろう。

 

 が、実際に強風下でそうしてみると、尿が暴れるではないか。どうしたどうした。

 

 空気の流れの中に物体があると、渦を巻くように風が流れ込むのだが、小便をするときにもこれが適用される。背を向けた人間の左右から風が回り込んできて、尿を巻き上げるわけである。

 

 もちろん風に相対するわけにはいかない。強い風でシモが凍え、全身尿まみれになったお馬鹿さんが出来上がるだけだ。正しい排泄方法は風に背を向けつつも、少し角度をつけてやると良い。こうすると出した尿は風に乗って旅をしてくれる。南極よ、これが物理だ。

 

 一方で大便はというと、こちらは発電棟に設けた簡易トイレを使う。水洗でも汲み取り式でもない、災害用・緊急用として使われるペール缶トイレだ。

 

 円柱状の金属缶の中に重ねたビニール袋とタイコン(土嚢にも使われる丈夫なコンテナバッグ)を入れた単純な仕組みで、出すもの出したあとは遮蔽に厚紙を敷き、押し潰す。適当なところまで溜まってきたら、袋ごと回収して交換、という形だ。

 

 なおペール缶トイレは原則として大便用である。両方したい場合、最初に小便を外でしてから大便チャレンジするのが望ましい。

 

 

 以上、山田恭平氏の新刊『南極で心臓の音は聞こえるか~生還の保証なし、南極観測隊~』をもとに再構成しました。南極観測隊員(大気研究者)による、非日常が日常的に起こる1年4カ月の滞在記。

 

●『南極で心臓の音は聞こえるか』詳細はこちら

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